ERPベンダーの雄であるSAPは、ユーザーのこだわりやビジネス環境の変化にも柔軟に対応できる「BPP」(ビジネスプロセスプラットフォーム)を掲げ、経営に貢献する情報システム構築の新しいアプローチを提案する。SAPジャパン 代表取締役社長 兼 CEO、八剱洋一郎氏に話を聞いた。
ITmedia ますます経済のグローバル化が進む中、日本の企業が置かれている状況をどのように捉えていますか。
八剱 日本は製造業の国だとつくづく感じます。しかし、製造業以外では日本のやり方がなかなか確立できていません。具体的なモノがあり、機能も見え、それに対して価格を付けるというアプローチは得意なのです。しかし、モノが見えないサービスやソフトウェアに価格を付けて売っていくのは、あまり得意ではありませんね。
日本の会社の基本的な考え方は、コストを下げながら、それに適正な利潤を載せて売価とし、世の中で売っていくというもの。これはモノに限らず、サービスでも共通です。実はここに限界があるのかもしれません。コストにプラスアルファでは、飛び抜けたものがなかなか生まれてきません。日本がさらにもう一段大きくなるためには、かつての「かんばん方式」のような、日本らしい新しい考え方が製造業において必要になるでしょうし、製造業以外の分野でも新しい息吹が出てくれば、もっと面白くなると思います。
ITmedia 八剱さんは、日本アイ・ビー・エムに約20年在籍したのち、日本AT&Tや日本テレコム(現ソフトバンクテレコム)、ウィルコムの社長を歴任しています。通信業界はどうでしたか。
八剱 通信業界では、インフラが大規模なため、通信料当たりのコストをはっきりと計算するのは難しいですね。日本でも唯一、コストにプラスアルファでは考えにくい業界ではないでしょうか。
ITmedia コストにプラスアルファが支配的な日本企業の中で、情報システム部門はどのような課題を抱えているのでしょうか。
八剱 日本人は細部にこだわります。全体で上手く機能しているのであればいい、という国民性ではありません。全体としてはいいが、「ここの角度が微妙に違う」、あるいは「材質感が異なる」とこだわります。
こうしたこだわりが、コンピュータシステムを担当する情報システム部門にもそのまま要件として突きつけられるわけです。
欧米のITプロジェクトでは、トップダウンで「細部にはこだわるな」「多少細部で違いはあっても飲み込め」として、結果を効率的に追求します。これに対して日本のそれでは、細部を一つひとつ詰めいくため、標準化が難しく、パッケージソリューションも採用しにくくなってしまいます。それにもかかわらず、情報システム部門は経営層からIT投資の効率化を催促されます。効率化のためには、パッケージソリューションの導入など、選択肢が広がる標準化が避けて通れないのですが、ユーザー部門にはこだわりがあり、猛烈な板挟みですね。
ITmedia 昨年10月末に宮崎で行われた「SAPPHIRE '07」カンファレンスには、多くの経営者が参加されていました。日本も変わりつつあると感じました。
八剱 経営者のあいだで、情報システムが経営の根幹にかかわるものだ、という意識が芽生えています。長らく経営とITには深い溝がありましたが、経営者らが情報システム部門の苦労を理解しようと歩み寄ろうとしていますね。
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明治学院大学 経済学部准教授