アイデンティティを明確にし、オーセンティシティとして確立して価値を提供する、それがこれからの企業が必要とされるテーマだ。
前回、現代の食のシステムや文化について、再認識が必要ではないか、と述べた。今回も食について考えてみたい。
食べ物や飲み物を大量に生産し流通させるとはどういうことなのか。本来は材料から手作りしていた食べ物――主食、惣菜、お菓子、飲料といったもの――が、1日に何万とか何十万個もほぼ同じ味で同じ形状で生産され、流通し、消費される。われわれはその仕組みの一部として存在している。
しかし、そこで何か問題が起こった時、それを供給者側の責任だけで論じてしまうことに、何か違和感を覚えてしまう。われわれは店頭でそうした食品を手に取ったとき、それがどの様に作られ流通しているのかを、意識することがどれほどあるだろうか。供給者を全面的に信頼しているから、そんな必要はないという考え方もあるだろうが、筆者にはそれが正論であるとは思えないのである。
加工食品と呼ばれる食べ物、例えば最近よく売られている栄養バランスと利便性を考慮した食品(ブロック状のものやゼリー状のもの等々)について、それが何の説明もなしにお皿に乗って出されたとしたら、果たしてわれわれはためらいもなく口にできるだろうか。
商品名やパッケージ、CMによるイメージ作り、そしてパッケージに記載される成分や効能、さらに過去に類似した商品体験との比較、実際に食した人の評価など、そうした現代の食品において情報が果たす役割は、食欲や味覚そのものに大きな影響を及ぼしているといっても過言ではない。そうした様々な情報を加味して、ようやくそれを口にする判断を下しているのが実際ではないだろうか。
そして、今回の一連の事件が示唆することは、そうした情報に加えて、製造や流通のプロセスに関する情報というものの価値が、大きくクローズアップされようとしている点だ。もちろん、材料や製造手法には多くの企業秘密がある。しかし、その難しさを超えても、そうした情報を例えばWebなどで提供していくことは、これから食品産業が進化するうえで大きなポイントになるように思う。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授