D社のE常務取締役経理部長は、そもそもグループウェア導入に反対だった。理由は、周囲の者によく判らない。グループウェア導入にともない、業務プロセスが変更になり、設備投資の申請・認可方法も改善された。新しい方法は、申請された設備投資の内容について取締役会で充分議論されて承認されれば、後は申請書類をグループウェアで事務的に流すだけでよいことになった。
しかし、システム稼働後すぐ検査設備投資申請を規則どおり処理したF検査部長が、Eに呼びつけられた。EはFを叱りつけた。「こんな巨額の申請を、ただパソコンで流す奴がいるか。直接説明しろ」。業務ルールを変更したときも、検査部からの申請を承認したときも、取締役会にEは出席していたにもかかわらず、である。
筆者の知り合いのG社某役員から、こぼされた話である。G社の役員会議に、CIOであるH取締役からSaaSを利用したSFAの導入提案があった。J営業担当役員は、検討して次回会議で回答をすると引き取った。次回会議で、JはSaaSの利用はソフトウェアのカスタマイズができないという理由で、反対の意思表明をした。Hは、G社の業務フローは救いようがないほど硬直化しているため、この際営業業務を突破口にして改革をしなければならないので、提供されるSFAに業務を合わせるべきだと主張して譲らなかった。
実はHもJも、部下の入れ智恵を根拠に主張しているため、議論を深めることが無理で、どうしても感情が支配した。HとJの対立は、他の役員も巻き込んで深刻化していった。筆者にこぼした某役員は、「そもそも最初の提案のときに、HがJに根回しをしないこと自体が、G社の役員間の問題点を象徴している。その後の他の役員も巻き込んだ事態の悪化は、起こるべくして起こった。こんなことでは、G社の先が思いやられる」と、心情を吐露した。
以上の例から言えることは、役員たるもの私情を捨て、旧弊に捉われず、大所高所から物事を考えるようにしてもらいたいものだ。役員たちは、役員間の確執に時間を費やす暇などあるはずがない。役員は会社の将来を慮り、率先して部門間の連携をとるべきである。
即ち、経営者のITへの関わり方を次のように整理できる。
これらは、余りにも常識的な内容で、ことさら取り上げることは気が引けるが、実態としてA・D・G社のようなドロドロした現実があるから、仕方がない。役員間のドロドロした現実に気づかない振りをしたり、無視したりせずに、直視し、対処しなければならない まず、企業人は現在の地位のワンランクかツーランク上の発想で仕事に当らなければ、個人の成長も、企業の発展もあり得ないと言われる。経営陣がITについて対処する場合も、常にトップの立場で考え、言動を取らなければならない。
次に、ITを企業に導入する場合、全体最適や企業の質を高めるという高度目的を達成するために、部門間や企業間の連携が必須である。経営陣は、そのために狭い視野を捨て、ITへの関心と見識を身につけ、大所高所から考える癖をつけなければならない。
そして経営陣たるもの、例え異論があっても、一旦決定した社の方針に積極的にコミットメントしなければならない。
こんな情けないことを俎上に上げること自体気が引けるが、実態から見て仕方あるまい。
しかし役員まで上り詰めた人は優秀な筈だから、そのくらいのことは自らできるだろう。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授