もう1つビジネスの世界で話題になる予測として経済予測がある。現在、米国のサブプライム問題とエネルギー価格の上昇が、足元の経済環境に様々な影を落としており、経済環境への関心は高まっている。次々に明らかになるそれらの影響から生じた結果に対して、2008年経済の予測は概して弱気な方向に転じた。
しかし、経済分析に携わる者の間でサブプライムが問題視され始めたのは、決して最近のことではない。名だたる大手金融機関が、そんなに多額のサブプライムを扱っていたとは知らなかったと言うことが許されるのは、金融や経済にあまり縁のない素人だけだろう。
しかも、将来に先送りされた多額の返済は、決して不確定なことではなく確約された事実なのだから。こうしたいわゆる経済予測あるいは市場予測といわれるものは、本質的な変化やその契機になるものを見極めることが、非常に重要なことなのだが、表面的な雰囲気やトレンドのようなものに流され、その少なからずが見逃される傾向にあるように思う。その意味で、今日のような情報化がもたらす影響は、必ずしも好ましくない一面もある。
経済の世界においても、様々な「経済モデル」と称するコンピュータプログラムは存在するが、地球シミュレータのような試みに比較するにはまだ程遠いのが現状だ。人間による予測は、冒頭に書いたとおり現実との関係でいくらでも揺らぐ。気象が自然の営みをベースにしているのに対して、経済は人間中心の営みであることが大きな違いだからだろう。人間の営みを予測するのは永遠に無理なのかもしれない。
筆者がまだ社会人2、3年目だった頃、昨年逝去した元NEC社長関本氏の渉外活動をサポートしていたことがある。ある年の瀬に、某テレビ局の新春企画で「どうなる日本経済」と題した景気討論番組で、時の経済閣僚や学者、評論家等との対談に出演する依頼が送られてきた。広報部門からの申し入れを二つ返事でOKした同氏だったが、その際に「これだけの人間が集まるんだから、(番組の)タイトルは『どうなる…』ではなくて『どうする日本経済』だよな」と、我々スタッフに呟いた。結局、それは単なる呟きにはとどまらず、彼は収録の本番で開口一番その言葉を放ち、司会を担当した局の論説委員を慌てさせたのをいまでもよく覚えている。
今日までの情報社会の進化がもたらしているのは、現在を明確にすることにとどまっている。その現在は驚くほど大量の情報に溢れている。しかし、それが一義的に利便性をもたらすものではないことは、判断や決定といった主体的な人間の行動の重要性が高まっていることを示唆している。将来は現在の因果なのかについて、その答えが科学的に導かれる日は当面は来ないだろうが、人間の将来は人間で決まるという原則は信じて臨みたいものである。
なりかわ・やすのり
1964年和歌山県生まれ。88年NEC入社。経営企画部門を中心にさまざまな業務に従事し、2004年より現職。デバイスからソフトウェア、サービスに至る幅広いIT市場動向の分析を手掛けている。趣味は音楽、インターネット、散歩。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授