同じような仕組みを、IBMでも構築している。同社では、顧客との関係を顧客の側での購買における認知や態度の変化に注目して、次の1つの段階に分けている。
顧客はまず、(1)自身のIT環境の問題やIBMの存在に気付き、(2)IBMへの関心が増し、(3)IBMとの問題や構想の打ち合わせや予算取りを行い、(4)導入するシステム・インテグレーションの構想内容について合意し、(5)契約条件詰めの交渉をして、(6)成約に到る、というものである。
そして同社では、この顧客の変化に対応させて、マーケティング、コンサルティング、営業、開発とさまざまな部門を順に、あるいは組み合わせて起用している。
その全体像は、次のような7つのステップになっている。マーケティング→コンサルティング→計画書・見積書の提示→成約→サービス・デリバリー→システム・インテグレーションの納入とチェック→保守サービス、というものである。
そのようにステップ分けすると同時に、IBMではそれぞれのプロセスごとに顧客の購買意向をA、B、Cと3段階評価し、顧客を絞り込んでいる。ステップが先へ進むに連れて、評価がAに上がっていく顧客もいれば、BやC止まりになる顧客も当然出てくる。同社では、そうしたB、C止まりの顧客に対しては、もう営業担当者はアプローチしない。なぜなら、無駄なことだからである。
さらに、同社の場合は組織が非常にフラットであり、案件が詰まると、米国本社のトップに情報が直に伝わり、スピーディに判断が下される。トップが最終的に判断することが分かっていれば、担当者としてはそれだけやりやすくなるわけである。
以上のような例からも分かるとおり、顧客関係を構築するには案件進捗のプロセス・マネジメントが非常に重要である。そして、それを実現するためには、次の5つのポイントを忘れてはならない。
(1)顧客の購買の進行に沿ってステップを作る
(2)マーケティングと営業を区分する
(3)「顧客が今、どの段階にいるのか」、「これからも一緒にやっていけるのかどうか」を各ステップで判断する
(4)営業の役割を明確化する
(5)マネジャーは、人を管理せずに、「案件の進捗」を管理する
このようなプロセス・マネジメントは、ともすると小さい規模の企業では無理だと思われがちだが、小さい企業ほど推進しなければならない。顧客との関係で一番大事なのは、自分たちのエースをどの段階で投入するかを的確に判断することである。そのためには、プロセスごとに分けて考えるのが最も合理的で、間違いがないのである。換言すれば、プロセス・マネジメントをきっちりと行うことは、ムリ・ムダ・ムラをなくすことにもつながるということである。小さな規模の企業こそプロセス・マネジメントを推進すべきだという理由は、まさにそこにあるのだ。
なぜプロセス・マネジメントによって、ムリ・ムダ・ムラをなくせるのかと言うと、案件とその進捗が経営者に見えるからだ。それは取りも直さず、売上や収益の予測・管理ができるということであり、「予期して備えること」(マネジメント)ができるということである。
営業プロセスを合理化し、マーケティングと営業の役割を明確に区分し、それぞれが明確なミッションを持ち、きっちりと果たす努力をすれば、顧客満足度が上がり、結果として経営のクオリティが上がるのである。(早稲田大学 IT戦略研究所主催「エグゼクティブ リーダーズフォーラム 第21回インタラクティブ・ミーティング」での講演をもとに構成)
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授