ビジネス現場の最前線で働くミドルは、企業経営のための知識やノウハウを幅広く身に付けている。もしもトップが誠実さを欠けば、引導を渡すのはそのミドルたちだ。
第2回目の連載で、「働きがいのあるいい職場、いい会社」の実現はトップの仕事に他ならない、と書いた。しかし、トップにその気概はあるのか。筆者にはそうは思えない。
これからの企業成長を担うと期待される革新的な新事業。期待が大きなものほど、当分は「金食い虫」、多角化企業における資源配分手法であるPPM(Products Portfolio Management)の用語で言えば「問題児」、とのレッテルが貼られてしまう可能性が高い。前回述べたように、こうした新事業に辛抱強く資金を手当てし続けようと腹をくくっているトップは思いのほか少数ではなかろうか。
「イノベーションのジレンマ」のコンセプトで著名なハーバード・ビジネススクールのクレイトン・クリステンセン教授は、辛抱強くない株主の意向にばかり目を向けてしまうことは、革新的な取り組みの弊害となると主張している*1。しかし、「モノ言う」株主(往々にして辛抱強くない)を前にして、株式市場に粛々と資金が還元されている現状からは、日本企業のトップが「我が社」を力強くけん引している姿は想像しがたい。
『プレジデント』誌の元・主任編集委員で現在は神戸大学で教べんを執る長田貴仁准教授は、株主からの過剰な要求というものがバブル崩壊後、そして最近は特に顕著に観察されるようになったと指摘する。そうした過剰な要求から会社を守り、会社を成長軌道に乗せ続けられるトップの力量を「ガバナンス攻防力」と呼び、トップに必須の力であると主張している*2。
「働きがいのあるいい職場、いい会社」を求めるミドルには、自社のトップがこうした攻防力を持つ人物であるのか否か、吟味されることをお勧めする。
「少し(あるいは、多分に)心許ない」との思いを持つミドルはどの程度いるか。その数は少なくない、と筆者は考えている。社内の従業員には「新事業を!」と勇ましいが、社外のモノ言う株主には気後れ、「あたふた」あるいは「ひやひや」している様子が伝わってくるケースは少なくなかろう。
こうした状況においては、企業活動を通じて付加価値を生み出す源泉となっているミドルを中心とする従業員がトップに対して「モノ言う」べきである。必要とされるガバナンス攻防力を有しないトップに対しては、その席から去ることを勧告する。モノ言う株主を前にして後ずさりする経営者には引導を渡す。席を去らない経営者については、引きずり下ろす。
第2回目の連載で、「日本のミドルは頑張るな」と書いた。お読みになった方はお気付きだろうが、仮に「頑張る」に値する会社であれば、是非ともミドルには日々の仕事にまい進していただきたい。これが筆者の本意である。頑張るに値する会社を実現するためには、それに責任を持つトップに対して是非、ミドルの方には声を上げていただきたい。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
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明治学院大学 経済学部准教授