社内で明らかに失敗と認められているケースだけが失敗ではない。稼働が当初予定よりも数カ月、1年、あるいは2年遅れた場合、それだけ費用が掛かり、機会損失を生じているのだから失敗といえる。全社へ適用するはずだったシステムが、うまくいかないので部分適用した場合も、所期効果が出ていないはずだから失敗だ。
従来業務をそのまま新システムに乗せることは、一見いかにも成功に見えるだろうが、失敗である。効果が出ているはずがない(上記企業の例)。新システムを走らせているが、現場で新システムが使いにくいので従来システムやローカルシステムを密かに使っている場合も失敗だ。二重手間であり、無駄が生じている。
問題なのは、関係者がこれらを失敗と認めないのである。そもそもシステム構築の当事者は、口が裂けても自らの仕事を失敗とは言わない。そして周囲は、なかなか失敗に気付かない。仮に気付いたとしても、公には失敗としない。いずれも個人、あるいは社としての保身である。
しかし、マスコミはだまされてはいけない。建前を取材しようとせず、真の姿を捕まえなければならない。それは極めて困難な作業であろうが、取材側もプロであるはずだ。腕を磨いて本音を取材しなければならない。そのまま記事にできないのなら、例えば「失敗」を紹介して、失敗を克服した成功物語にでも仕立て上げればよい。読者は作られた成功物語よりも本音の失敗を知りたいのだから。本音を取材することによって、マスコミはIT導入において正しい道しるべを与えることができる。
マスコミが取材した本音の情報から学ぶことは大いにあるが、建前の情報から学ぶことは何もない。むしろ、有害である。一方で、読者は建前の情報があふれ返っていることを知っておくべきである。
増岡直二郎(ますおか なおじろう)
日立製作所、八木アンテナ、八木システムエンジニアリングを経て現在、「nao IT研究所」代表。その間経営、事業企画、製造、情報システム、営業統括、保守などの部門を経験し、IT導入にも直接かかわってきた。執筆・講演・大学非常勤講師・企業指導などで活躍中。著書に「IT導入は企業を危うくする」(洋泉社)、「迫りくる受難時代を勝ち抜くSEの条件」(洋泉社)。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授