さて、米国では6大学にCIOプログラムが整備され、教育修了者に「連邦CIO資格証明書」が交付されるほど定着しているが、一方で日本のCIO教育の実態は、以上の国家施策を前提としてどうなっているのか。
2004年にCIOコアコンピタンスと学習項目が策定され、2006年にCIO設置促進の推奨と高度人材教育の必要性を提言されながら、現在の大学教育レベルのシステムは早稲田大学院だけのようだ。早稲田大学の独立大学院の中に「国際情報通信研究科(GITS)」があり、その中の「社会環境分野」に「CIO並びにITプロフェッショナル養成大学院修士課程2年コース(CIO・ITコース)」が、2004年秋に設置されている。このコースへの応募人員や競争率などは公表しないという方針らしく、問い合わせをしても残念ながら実態は分からないが、いまだに他大学に新たなCIOコースが設置された様子がないことは、何を意味しているか。
米国の場合はCIOの機能や職位の重要性が一般的に認められており、CIOの人材流通市場も確立されており、官民のCIO人事交流も自然に行われている。それを背景にして、教育の需要が当然ながら存在し得る。しかし、日本の場合は「関係者」だけがCIOの重要性や教育の必要性を説いても、実態としてCIOが重要視されず、むしろ軽視され、CIOそのものに対する需要が少なければ、CIO教育に対する需要も当然少なくなる。いくらお役所がCIOの重要性を説いても、官も民も馬耳東風である。前回まで議論した「CIOの重要性」は認識されていないのである。
この際、IT導入事故が、しかも致命的な事故が多発してくれれば、世の中も経営者も認識を改めるかもしれない。そうすると、法でCIO設置や教育を義務付けることにもなろう。
冗談はさて置き、前回まで力説した経営環境激変やJ-SOX法の適用などへの対応で、今後CIOの重要性が認識されてきそうだが、器用にいくつもの逆境を乗り越えてきた日本企業であれば、CIOなしで、あるいは形式だけのCIOで、おそらく何とかすることができるかもしれない。しかし、本質的対策を避けて表面を取りつくろうだけでは、人材という面から企業も官公庁もITが崩壊しかねない。では、どうするか。方法は1つしかない。
世のCIOが、実績を出すのである。形式であろうが、兼任であろうが、専任であればもちろんのこと、世のCIOがCEOや経営陣の信頼を勝ち取り、致命的なITトラブルを快刀乱麻を断つごとく解決し、経営環境の激変やJ-SOX法適用に対して速やかにかつ的確に対応するのである。そうすれば、CIOの存在の重要性が認識され、CIOに対する需要が増え、CIO教育に対する需要も出てくるだろう。
すなわち、CIOに対する世の認識を改め、CIOの需要を増やし、CIO教育の需要を増やし、結果的にCIO教育の供給をも増やすのは、CIO自身なのである。
ますおか・なおじろう 日立製作所、八木アンテナ、八木システムエンジニアリングを歴任。その間経営、事業企画、製造、情報システム、営業統括、保守などの部門を経験し、IT導入にも直接かかわってきた。現在は「nao IT研究所」代表として、執筆・講演・大学非常勤講師・企業指導などで活躍中。著書に「IT導入は企業を危うくする」(洋泉社)、「迫りくる受難時代を勝ち抜くSEの条件」(洋泉社)
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授