佐三の事業手腕、経営哲学については到底ここで書き切れるものではない。企業経営の苦境下でのあり方だけでなく、企業経営を進めていく上での株式会社、上場制度のあり方など、佐三から学べることは多い*5。
佐三自身や出光興産の手によるものを含めて、佐三に関する著書は多い。例えば、日本経済新聞社の元取締役論説主幹である水木楊氏の「難にありて人を切らず――快商・出光佐三の生涯」(PHP研究所刊、2003年)もその1つだ。
同書の中に次のような記述がある。1976年のことである。不況下にあった同年、多くの企業が新規採用を手控え、人員整理も断行されていた。こうした中、出光興産は例年よりも多い数の新規採用を行った。その際の佐三のスピーチである。
「今年は人はいらないけれど、素質のいい人をたくさんとった。諸君は5年、10年、20年先にその素質を発揮する。入社して君らには仕事がないから、いろいろなことを真剣に考え、自問自答するのです」
わが社のトップにこうした気概はあるのか、気概がなければミドルはどうすべきか。考えるべき時ではなかろうか。本コラムを書き終えて夕刊を手に取ると、一面には「GDPマイナス12.7%」「輸出、落ち込み最大」と大きな見出しがあった*6。「戦後最大の経済危機」という経済財政担当相のコメントもある。
現在が「戦後最大」の危機であるならば、戦後最大の知恵と、それを実行する勇気を持ったトップ、それを支えるミドルとの姿が見えてこないといけない。見えているのは、横並びの対応策ばかりではなかろうか。
吉村典久(よしむら のりひさ)
和歌山大学経済学部教授
1968年奈良県生まれ。学習院大学経済学部卒。神戸大学大学院経営学研究科修士課程修了。03年から04年Cass Business School, City University London客員研究員。博士(経営学)。現在、和歌山大学経済学部教授。専攻は経営戦略論、企業統治論。著作に『部長の経営学』(ちくま新書)、『日本の企業統治−神話と実態』(NTT出版)、『日本的経営の変革―持続する強みと問題点』(監訳、有斐閣)、「発言メカニズムをつうじた経営者への牽制」(同論文にて2000年、若手研究者向け経営倫理に関する懸賞論文・奨励賞受賞、日本経営倫理学会主催)など。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授