このところの円レート変動は、1985年のプラザ合意後の円高・ドル安の動きに似ている。より具体的に分析してみよう。
昨年のリーマン・ショック以降の金融危機による、世界的な株安と円高の急進は日本経済に大きなマイナス要因となった。一時80円台後半まで進んだ円高・ドル安は、1985年9月のプラザ合意の後を受けた円高・ドル安の動きに似ている。
プラザ合意ではドル高を是正するために意図的に金利差を縮小させ、円高・ドル安の動きを生じさせた。金利をここでは長期金利でみることにする。当時の円ドルレートを日米長期金利差で回帰分析すると、自由度補正済み決定係数は0.87程度である。日米長期金利差が1%縮小すると約30円のドル安が進んだ。
今回の円高・ドル安は意図して生じさせたものではないが、金融危機の震源地である米国で金融緩和政策が取られ大幅に政策金利が引き下げられた。日本は0.5%だった無担コールレートの誘導目標を0.1%まで引き下げたが、下げ幅が小さく、日米長期金利差は2%台から12月には1%近くにまで縮んだ。今回の局面は円ドルレートを日米長期金利差で回帰分析すると、決定係数は0.87程度で1%の金利差縮小により15円程度円高・ドル安が進んだことが分かる。回帰式からは、1%近い金利差は80円台後半を、1%台後半は90円台後半を示唆するが、実際の相場も米国長期金利がやや上昇する中、概ねそうした流れでやや円安に戻る形で推移している。
2009年に入り、米国長期金利が先行きの大型財政出動を見込んだことなどでやや上昇したため、円高・ドル安の流れは一服し1ドル90円台に戻した。2月半ばからは、中川昭一前財務大臣の辞任や日本の実質GDP(国内総生産)成長率が10〜12月期第1次速報値で前期比年率12.7%減と大きい減少率になったことなども材料にし、90円台後半まで円高が進んだ。金融危機が信用収縮、株価下落などの逆資産効果による需要減、前述した100円を割り込む円高の進展などのルートを通じて実体経済を急速に悪化させている。
鉱工業生産指数の前月比減少率は発表されるたびに史上最悪更新が続いている。つい最近まで史上最悪は2001年1月分の前月比4.2%減だったが、2008年11月分速報値で8.1%減と大幅に記録を更新した後、12月分確報値で9.8%減、2009年1月分速報値で10.0%減と大きく記録を更新した。
2009年1月分の速報値では鉱工業出荷指数の前月比も11.4%の大幅減少となったが、在庫の前月比も2.0%減と5カ月ぶりに減った。12月末の在庫の前年同月比は4.7%増だが、1月末では同2.8%増へと下がっている。
出荷の落ち込みがきついので在庫率は急上昇しており、在庫調整が必要な局面であることに変わりはないが、どこかの時点で需要が出て出荷増となれば、すぐに生産増に結びつきやすい状況にあることは事実である。中国や米国などの経済政策の効果や、日本のこれからの対策などによっては2009年度後半には生産が上向き、景気拡張局面に入ってくる可能性は大きいだろう。
景気と関係が深い身近な社会現象も足元は厳しいものが多い。2月5日から11日にかけ開催された「さっぽろ雪まつり」の観客数は、今年は208万人で前年の215.9万人を下回った。JRA(中央競馬会)の3月1日までの年初からの売り上げは前年比で8.8%の減少になっている。放火火災件数も2008年9月以降、直近判明している12月分まで増加傾向にある。
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明治学院大学 経済学部准教授