【第4回】世界中が探る適正な政府の大きさとは?石黒不二代のニュースの本質(1/2 ページ)

米国民の怒りを買ったAIG幹部への高額ボーナス支給問題。政府はボーナスへの課税強化を推し進めているが、今度は金融市場に波紋を広げている。国家が民間企業の経営にどこまで介入すべきか考える必要がある。

» 2009年04月10日 08時15分 公開
[石黒不二代(ネットイヤーグループ),ITmedia]

 米国政府の支援を受けたアメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)の巨額ボーナスへの課税法案を、米議会が通したことに驚いた方も多いのではないでしょうか。

 多くの批判を集めているこの件に関しては、まだ決着がつかず、こうして原稿を書いている間に、新しい展開を見せるかもしれません。ただ、AIGという今回の金融危機の元凶を作り出した会社の1つであり巨額の政府支援を受けている会社が、この後に及んで元凶の生みの親ともいえる幹部社員に巨額のボーナスを支払ってしまったこと、その理由が、破たんする前の契約を順守しなければならないからだということが一般国民を憤慨させていることは確かです。

 しかし、わたしをさらに驚かせたのは、契約を不履行することが無理だとすれば、それを阻止する方法として新しい法案をつくってしまえ、つまり、超法規的な法律をつくれという米国政府の強引さとスピードです。

ボーナス支給問題の流れ

 これまでの大まかな経緯をおさらいしたいと思います。


・米国政府は昨年9月に、保険大手AIGの救済を決定。これまでに1730億ドルの支援金を拠出している。

・ガイトナー財務長官がAIGを破たんに追いやった370人の幹部および従業員に1億6500万ドルのリテンションボーナス(残留特別手当)を支払う計画を知る。

・AIGは1億6500万ドルのリテンションボーナスを支払う。ボーナスの最高額は640万ドルを超え、100万ドル以上のボーナスを受け取ったのは73人、うち人11人が退社した。議会からは返還を迫る声が高まる。

・オバマ大統領はあらゆる法的手段を使って支給を阻止すると表明した。

・公的資金で救済された企業幹部のボーナスに対し、税率90%で特別付加税をかける法案を賛成多数で可決する。


 破たんの道を歩んでいた金融機関への支援には、結局のところ納税者からの税金が使われるわけですから、一般国民からすれば最高6億円以上の追加ボーナスを間接的に支払うなど論外というところでしょう。上院議員の中には、これらトレーダーが自殺して罪を償えと発言した人さえいます。しかし、わたしはこの超法規的な政府の対応が必ずしも正しいとは思いません。政府の中にも、この法案を上院が通すかどうかは論議が必要であるという慎重論が台頭しつつあるようです。

 そもそも、発端である金融機関を救済するか否かの判断材料として、その金融機関の債務の波及効果の大きさというものがあります。平たくいえば、このケースではAIGが破たんすることにより、AIGに債権を抱えていた金融機関や企業がその債権回収ができないために連鎖倒産する効果です。連鎖が大きければ全体経済に及ぼす影響が大きいと考え、政府は支援を決定します。

 ですから、サブプライムやCDS(クレジットデフォールトスワップ)という債務の支払い能力がなかったAIGを救済することは、救済金がこれら債務という契約の義務の履行のために使われることにほかなりません。事実、AIGは最近、その契約相手である米Goldman Sachsやドイツ銀行など各社に30億ドルから70億ドルもの支払いをしています。

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