なお、ビジョンにおいて、次の2点に留意すべきである。
(1)考え抜いた上で、50%は実現可能ならば、ビジョンとして打ち出すべき
(2)ビジョンは冷静に抑えたトーンで伝える
まず、リーダーはビジョンを打ち出す前に、どのようなビジョンにすべきか、徹底的に考え抜いてほしい。現在必要とされているものが何なのか、人々の声(部下や顧客の声)に真剣に耳を傾け、考えるのである。組織のリーダーならば、現場に足を運んで生の声に耳を傾け、現場で何が問題になっているのか、顧客は何を望んでいるのかを聞き出し、とことん話し合い、議論する必要がある。
その上で、ビジョンとなるものが見つかったらならば、その実現可能性をあらゆる角度から検討する。検討した結果、実現可能性が50%あるならば、それはビジョンとして打ち出すべきである。
「50%だと危険すぎる」「達成できなかった時が怖い」というリーダーがいるかもしれない。しかし、考えてみてほしい。実現可能性が極めて100%に近い、達成できて当たり前のビジョンを掲げても、いったい誰が頑張ろうとモチベーションを高め、努力するだろうか。100%大丈夫というものはビジョンにはなり得ないのである。
一方で、50%実現可能性があるビジョンならば、達成に向けて真剣な議論が行われ、多くの努力が生まれるのである。「そんなのは絶対に無理だ」と言う人が出てくるかもしれないが、そんなネガティブな意見を気にする必要はない。ビジョンを低く設定してしまったら、どんなに頑張っても、結局はそこまでの成果しか生まれない。50%実現可能と思ったならば、そのビジョンを打ち出せばいい。実現できなかった時のことを考えて、守りに入るのではなく、そのビジョンを打ち出すことで、メンバーの力を引き出すことが、リーダーとしての役割である。
ビジョンが決まったならば、それを人々に明確に示す必要がある。ここで、ビジョンをどのように伝えるかが重要になる。感情的にならず、落ち着いて、1つ1つの言葉を明確にゆっくりと声のトーンを抑えて話すことが大切だ。今回の鳩山首相は、これらを実践できたといってよい。声を荒げることなく、淡々とゆっくり話したことで、ビジョンがとてもよく伝わった。
ビジョンを伝える際には、時折、メモを見ながら伝えるのもいいのかもしれない。そうすることで、適度な間が生まれ、感情的になるのを抑えられるとともに、聞いている人に落ち着いた印象を与えられる。また、根拠を持ってビジョンを示していることが分かり、人々は真剣に耳を傾けるようになるだろう。
では、ビジョンがないとどうなるだろうか。ビジョンとは組織だけでなく、「○○を達成したい」「○○のようになりたい」といったように、個人も持っているものである。個人がビジョンを持つことは良いことなのだが、組織にビジョンがないと、個人のビジョンが顕著になりすぎる。個人が自分のことだけを追求し始め、組織としてはまとまりのないものになる。ビジョンを持つ個人の能力をうまく生かせない状態になるのである。リーダーがビジョンを明確に示すことで、個人がより一層努力し、組織として成果を残す土壌が生まれるのだ。
鳩山首相が掲げた「25%削減」というビジョンの実現は、現時点では、とても難しいものだろう。しかし、後世のために地球温暖化を防ぐには重要な一歩であると言えよう。ビジョンがあるからこそ人は頑張れる。今回の件でビジョンの重要性について改めて考えさせられた。
連載「問われるコーチング力」のバックナンバー一覧
細川馨(ほそかわ かおる)
ビジネスコーチ株式会社代表取締役
外資系生命保険入社。支社長、支社開発室長などを経て、2003年にプロコーチとして独立。2005年に当社を設立し、代表取締役に就任。コーチングを勤務先の保険会社に導入し、独自の営業システムを構築、業績を著しく伸ばす。業績を必ず伸ばす「コンサルティングコーチング」を独自のスタイルとし、現在大企業管理職への研修、企業のコーポレートコーチとして活躍。日経ビジネスアソシエ、日経ベンチャー、東商新聞連載。世界ビジネスコーチ協会資格検定委員会委員、CFP認定者、早稲田大学ビジネス情報アカデミー講師。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授