日本企業の“常識”を破壊、長寿企業で大胆な構造改革を実現したリーダー像(1/2 ページ)

日本企業の“常識”の破壊に立ち向かい、120年以上の歴史を持つ大企業を大きく作り変えた経営者、DOWAホールディングスの吉川CEO。その“非・常識”な経営とは、どのようなものだろうか。

» 2010年03月12日 08時15分 公開
[岡田靖,ITmedia]

 早稲田大学IT戦略研究所は1月28日、経営層向けのセミナー「第29回 インタラクティブ・ミーティング」を開催した。非鉄金属大手のDOWAホールディングス 代表取締役会長・CEOの吉川廣和氏は、「不況下の企業改革とリーダーシップ」と題した講演の中で、自らが過去10年間に渡って手掛けてきた経営改革について語った。

 DOWAホールディングスの創業は1884年にさかのぼる、125年を超える歴史だ。2006年までの旧社名は同和鉱業で、その名の通り鉱山事業を長年に渡って手掛けてきた。

低迷していた経常利益を10年間で大きくプラスに転換

「10年前までは、いわゆる大企業病の典型だった。組織は完全に疲弊していた」と過去の自社を振り返る、DOWAホールディングス 代表取締役会長・CEOの吉川廣和氏 「10年前までは、いわゆる大企業病の典型だった。組織は完全に疲弊していた」と過去の自社を振り返る、DOWAホールディングス 代表取締役会長・CEOの吉川廣和氏

 10年前の同和鉱業は、歴史ある企業ではあるものの経常利益は低迷していた。それも昔からの膨大な資産の一部を売却して、その利益も含めての額である。資産売却益は平均して年に30億円前後だったと吉川氏は言う。

「明治時代からの会社なので資産は豊富にある。その資産を少し取り崩すだけで、ほとんど赤字にならず済んでいたような状態。株価は低迷しており、一方で資産はあるので、M&Aのターゲットになりかねないという懸念があった」(吉川氏)

 2000年、吉川氏が経営トップとなり、同社の事業構造改革がスタートした。10年間の事業構造改革で経常利益を大きく伸ばすことに成功、事業セグメント別で見ても各部門とも順調に拡大、収益構造は安定に向かっている。バブル時代の投資で増えた有利子負債も圧縮、配当もきちんと出すようになった。ROA(総資産利益率)も10%前後を維持しているという。

 ちなみに2008年度はリーマンショックの影響を受けてマイナスとなったが、さらなる構造改革を進めた結果、2009年度はV字回復してプラスになる見通しだ。株主に強い決意を示す目的もあって、2008年度にも配当を出したというから、吉川氏の強気の経営姿勢をうかがわせる。

日本企業の“常識”を破壊してきた構造改革

 この経営改革はどのように行われたのか。事業構造の変化を見てみよう。現在、DOWAホールディングスの商品の多くは、業界トップシェアを占めている。いずれもニッチ市場であり、個々の事業規模は大きくないが、合計すると売上高は約1,000億円。売上高の25%にも達する。むしろニッチ故に手堅い選択だとも言えよう。

 当然、そのような構造を実現するまでには、数多くの不採算事業から撤退し、新たな事業への投資や買収を積極的かつ迅速に進めてきた。新規事業への投資は、10年間で合計1,000億円近くに上るという。

「以前は単純に赤字か黒字かで投資を判断していたが、『市場があるか、将来成長するか』『競争力が当社にあるか』『社員のやる気があるか』の3つの基準に切り替えた。満たせぬ事業はたとえ黒字でも撤退するし、逆に赤字でも条件を満たせば将来性があるものとして投資する。しがらみや伝統などにこだわることなく、すべての事業をまな板に載せて判断した」と吉川氏は説明する。

 多くの日本企業の常識では、「昔からの事業だから」「ほかの事業との関係が」などと、ナアナアにしてしまいがちなものだ。その意味で、吉川氏の手法は“非・常識的”である。

 このような徹底した構造改革を実施するために吉川氏が最初に着手したのは、1999年7月に行った極秘の構造改革チームの結成だったという。大企業病につぶされてしまわぬよう極秘としたのである。約20人という少人数のチームで合理化案と構造改革案を作成し、11月にはそれらを社内外に発表した。そして翌年1月には希望退職者の募集と予算編成を行い、4月から構造改革をスタートさせた。

 迅速な意思決定を実現するため、仕事の進め方や考え方も大きく転換させた。歴史ある大企業では社内調整に時間を要するのが常識だが、吉川氏はその元凶となっている委員会を廃止、代わりにタスクフォースを多用している。

「閉鎖的な体質を改めるため、組織の上下左右の壁を破壊した。情報は都合の悪いものも含めて社内外に開放することに改めた。加えて、2006年の本社移転の際に完全ワンフロア、フリーアドレス、ペーパーレスのオフィスを作ったことで物理的な壁も破壊した」(吉川氏)

 個人の収納スペースは小さなロッカー1つだけ。不要な書類を削減するためだ。終業時刻を過ぎて机の上に置かれている書類などは、すべて処分される決まりだという。就業時間も完全フレックスタイム制に改め、従業員の自己管理に任せており、自由に休息を取れるよう社内にリフレッシュルームも設けた。ボンヤリと机に座っているより、成果を出してほしいという考えが根底にある。人事思想も「社員を信頼して結果を出してもらう」(吉川氏)ように改めた。

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