当然ながら、これほどの大胆かつ急激な改革には抵抗がつきものだ。吉川氏は、社長のオファーを受けたとき、当初1年あまりに渡って逃げ回ったとのことである。それでもぜひ社長をやってほしいというので、「今までとは違うことをやるが、それでも任せるか」と、言質を得て引き受けた。だが、任せると明言した人物が抵抗勢力に回ることはよくある。それは吉川氏も織り込み済みで、データを元にした理詰めの議論で彼らを論破していった。
もともと吉川氏は、社内の非主流派にいたという。中心派閥から微妙に外れたポジションだった。その状況の中で、主流派の仕事ぶりを批判的に観察し続けていた。ただし「爪を隠して」(吉川氏)である。データを元にした理詰めの議論で勝てる見込みがあっても、強い権限を持たない状態で主流派に対抗したところで、日本企業の常識からみれば立場が危なくなるだけだろう。だからこそ、上層部の言質を取り付けた上で実権を握り、そこから一気に改革に取り組んだというわけだ。
「リーダーとは改革を続けられる人で、能力ではなく、行動そのものだ。そして改革とは、現状を破壊して悪いものは捨てて良いものを残し、そこに新しいものを加えて新しい姿を創造していくこと」と吉川氏は語る。破壊と創造、それが吉川流経営のキーワードだ。
吉川氏は、リーダーの条件の1つとして「軸がブレないこと」を挙げている。抵抗勢力、経営資源の不足、環境の変化など数々の障害がブレる原因となりがちだ。しかし、障害だらけであることを嘆いているようでは何もできない。吉川氏は、ブレないためには他者の声に耳を傾けることが大切であり、社外のステークホルダーなどの声も重要だとしている。
では、ブレない強力なトップが長く務めていると、かえって会社に悪影響が出ないのか。吉川氏は次のように強調した。
「最初の数年間はトップダウンで改革を強行してきたので、上ばかり見る『ヒラメ族』が社内にできてしまうのではという懸念はある。そうした悪影響を避けるためには、早めに身を引くことが賢明だ。退き際に関しては、人生観のようなもので決めてあり、次期トップと人事トップにだけは伝えている」(吉川氏)
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授