セミナーの最後には、慶應義塾大学教授の竹中平蔵氏が『日本経済の進路と課題』と題した基調講演を行った。かつて小泉内閣で大臣を歴任し、郵政民営化をはじめさまざまな政策に携わった竹中氏は、混迷を深める今の日本の政治・経済情勢をどのように見ているのか。
「世界の経済を語るのに、“L、U、V”という言葉が使われている。経済回復を示す曲線の形だ。Lは落ち込んだまま低迷する状態、Uは少し遅れて回復軌道に乗るコース、そしてVは言うまでもなく迅速な回復。日本は今のところLとUの中間くらいにあるようだ。リーマンショック後の極端な状況からは、なんとか脱しつつあるものの、これから非常に厳しい局面にさしかかっていく」と竹中氏は語る。
それは短期的な指標と長期的な指標の乖離に表れている。例えばアルバイトなどの賃金は伸びているが、長期的な指標である正社員などの賃金は増えておらず、設備投資も同様の傾向だ。目の前の危機はしのいだが、長期的な見通しが立っていないことを示している。その背景には、経済政策の課題があると氏は指摘する。
「いつもわたしが重要だと唱えている“期待成長率”、これは政府からのメッセージによって大きく変わるが、今では1%前後という極めて低いところにある。今の民主党政権には経済政策のフレームワークがないことが大きな問題。企業の収支予測と同じく、それがあってようやく消費税を何%にするかといった議論ができる。美濃部亮吉氏時代の都政、生活者に口当たりの良いことをして人気は出たが、予算を組めなくなって終わった。今の国政はそれに似たところがある」
今後について悲観的な見解を数多く挙げる竹中氏。だが、それでも日本経済を良くすることは決して不可能ではないとして、具体的な施策を幾つか紹介した。例えば郵政民営化の推進、法人税の引き下げ、ハブ空港の確立、そして東京大学の民営化といった内容だ。これらの施策を通じて国際競争力を高めていくのだという。
「まだ今は、日本には技術も人材も資本もある。今のうちにやらなければいけない。ほかの国が行っていて、日本がやっていないことを実行するのだ。それで良くなる」(竹中氏)
そして、民主党政権には「日本のミッテランになれるチャンス」があるという。ミッテラン氏は社会党からフランスの大統領に選出され、政権初期は社会主義的政策を推し進めたが経済は低迷、自由主義的政策に転換していった。
「ミッテランは“欧州の統合へ”という大義名分を使い、また保守系のシラク首相を政権内に迎えたことが政策転換を容易にした。民主党も、今度の参院選あたりがチャンスになるだろう」(竹中氏)
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明治学院大学 経済学部准教授