欧州の証券取引の7割が、コンピュータを使って自動的に売買するシステムトレードであるともいわれており、日本でも浸透しつつある。
ここにきて日経平均株価が大きく値下がりし、5月27日現在で10000円を割る水準にある。同じくニューヨーク・ダウ平均も下がっており、1万ドルを割る日もあった。原因はいわゆるギリシャ問題にあるといわれているが、5月6日には、ダウ平均がたった15分で700ドルも下落し、関係者がパニックに陥るという事態も起きた。こちらについてはトレーダーによる「誤発注」が原因ではないかといわれ、話題を集めた。
現在、欧州の証券取引の7割が、コンピュータを使って自動的に売買するシステムトレードであるともいわれている。システムトレードは、ある銘柄があらかじめ設定した株価に達した際に、コンピュータを使って自動的に株を売ったり、買ったりする仕組みだ。今回の事件について米メディアは、あるトレーダーがある銘柄の取引において、百万単位の注文を出そうとした際、誤って十億単位で入力してしまったと報じている。
こうしたリスクはあるものの、システムトレードが証券市場の取引ボリュームを支えるという良い側面は存在する。欧米市場で浸透してきたシステムトレードだが、日本でも、東京証券取引所が2010年1月3日の大発会から、トランザクションを高速処理する新システム「arrowhead」を稼働させた。従来は、顧客が注文して情報がマーケットに送信され、1つの取引処理が完了するまでに2、3秒かかっていたところを、arrowheadでは5ミリ秒(1ミリ秒は1秒の1000分の1)程度で処理できるようにした。500倍程度も短縮することになる。
富士通が構築したこのarrowheadの登場により、日本でもシステム売買が本格化する兆しがある。インターネットデータセンター(IDC)を活用したサービスを事業者向けに展開する米Equinixの日本法人、エクイニクス・ジャパンの古田敬社長は「arrowheadの稼働以降、引き合いが数倍になった」と話す。エクイニクスは、自社のデータセンターに大手通信キャリアやコンテンツプロバイダー、証券取引所などの回線を引き込み、さまざまなサービスが1カ所に集まる「ハブ」としての機能を提供としている。ハブ機能の提供により、自社のデータセンターサービスの差別化を図るというビジネスだ。
ユーザー企業には、Yahoo!やGoogleなどのコンテンツ企業やDowjonesなどの金融系企業を中心に、KDDI、eBay、Sony、salesforce.com、amazon.comなど世界的な企業が挙がる。世界10カ国、45拠点にデータセンターがあり、日本にも都内の平和島と品川の2カ所に開設している。Equinixは米Nasdaqに上場しており、業績は総利益ベースで2007年が4億2000万ドル、2008年度は7億ドルと順調。今後もデータセンターを拡張する予定という。
古田氏によると「arrowheadの登場により、日本の証券取引所でビジネスをしたいという海外の小さなトレーディングハウスの需要が出てきている」という。トレーディングハウスには例えば、機関投資家を対象にサービスを提供しているChi-Xなどがある。
システムトレードを前提にした外資の投資家の参入が活発化することで、東証の売買高が増え、世界市場での存在感の向上につながる可能性があるという。一方で、現状でも取引全体に占める外国人投資家の取引割合の大きさが問題視される中で、それをさらに拡大することにつながるとの指摘もありそうだ。
一方で、arrowheadの導入には、東証をさらに国際化する意図がある。「政府や東証は金融センターとして日本の存在感を高めるためのプロモーションをあまりしていない」(同氏)という現状の中で、テクノロジーを軸に新たな市場を獲得しようとする同社のようなビジネスに注目が集まりそうだ。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授