世界で戦う日本の中小企業――Alibabaが引き起こすパラダイムシフト石黒不二代の「ビジネス革新のヒントをつかめ」(1/2 ページ)

今回はB2Bのマーケットプレイスとして世界最大といわれるAlibaba.comの日本法人社長、香山氏に日本における戦略を聞きました。

» 2010年06月10日 08時00分 公開
[石黒不二代(ネットイヤーグループ),ITmedia]

 Alibaba Group(以下アリババ)の名前を耳にしたことのある読者の方は多いと思います。Alibaba.comは、中国に本社を置き、世界最大の企業間取引サイト、つまり、B2Bのマーケットプレイスを運営しています。これだけではピンとこない方にも、以下のフレーズで、いかにアリババ、およびAlibaba.comがユニークで優れた会社であるかを理解していただけると思います。

アリババ日本法人の社長、香山氏

 アリババの創業は1999年です。杭州で英語の教師をしていたJack Ma氏を中心とする他17人の中国人が中小企業向けのマーケットプレイスであるAlibaba.comを作り、この無料サービスは翌年には有料会員サービスを開始。わずか3年の間に黒字化をしました。順調に成長したAlibaba.com は、2007年11月、香港証券取引所に上場します。その時価総額は17億米ドル(日本円にして当時の為替レートで2兆円)、2004年にGoogleがNASDAQ証券取引所に上場して以来最大のIPOとなりました。Alibaba.comのサービスを利用するユーザーは、現在240カ国5000万人に及び、従業員9000人を擁しています。

 Alibaba.comを特徴づけているのは、B2B商取引という点です。インターネットが商用化された1994年以来のインターネットの変化を覚えていらっしゃるでしょうか。まず、立ち上がったのは、ポータルサイトやECやオークションなどのB2Cサイトでした。

 その後、ドットコムバブルの崩壊を機に、インターネットはもう駄目かとささやかれた時期、「次はB2Bか」との議論が盛んになりました。その後、さまざまなB2Bサイトが乱立、購買サイトやリバースオークション、アリバという将来を有望視されてたくさんの投資家をひきつけたマーケットプレイスもありました。しかし、B2Bは結果的に総崩れだったのです。

 その中で、なぜ、アリババだけが成功したのか。その理由およびアリババドットコムとソフトバンクとの合弁会社であるアリババ日本法人のチャレンジについて、アリババ日本法人の社長、香山誠さんに聞きました。

石黒 香山さんがおっしゃるAlibaba.com成功の秘密はとても理にかなっている気がします。

1)1999年創業時に、英語サイトと中国語サイトを同時オープンしたこと(日本語は2002年)

2)当時、国際的にプライベートブランドが立ち上がり、世界中の企業が安価な中国の製造業者を探し始めていたこと

3)中国の製造委託業者の品質が向上してきたこと

香山 99年前後、米国でも日本でもかなりの数のB2Bサイトが立ち上がりました。しかし、プラットフォームとして成立するためには、もちろん規模が必要で、反対に規模がなければプラットフォームとしての魅力はありません。

 アリババ創業時と時を同じくして、米国に拠点を置く世界最大のスーパーマーケットWal-mart(ウォルマート)やイギリス最大の小売業チェーンMarks & Spencer (マークス アンド スペンサー)がプライベートブランドを拡大し始めました。日本でも、イオンやダイエーグループがプライベートブランドを続々と立ち上げ、各社は、ローコストなサプライヤーを探し始めたころでした。もちろん、ローコストと言えば、中国のサプライヤーです。その時、Alibaba.comが中国語サイト(www.1688.com) と英語サイト (www.alibaba.com) を同時オープンしたのです。

 当時は中国の製造技術の品質も相当上がってきたころでした。世界のバイヤーはローコストで高品質のサプライヤーを見つけ出せるAlibaba.comに一挙になだれ込みました。IKEAやWal-Martという巨大資本が行う発注額は想像以上で、最初のオーダーは数万ドルだったものが一挙に100万ドル単位になっていきました。

 Alibaba.comの第2次成長期を支えたのは、新興諸国でした。世界は、中国を製品の製造基地として認識しつつ、一方で、新興諸国の経済力が増しています。Alibaba.comにおいても、それは購買IDを見れば明らかでした。それまで欧米のIDが需要を支えていましたが、ある時点から新興諸国のIDによる売り上げが伸び始めたのです。これは、同時に、製造でなく最終消費財の伸びを示していました。

 創業者のJack Ma氏は、それに飽き足らず次の一手を打ちます。2003年にローンチしたエンドユーザー向けのECサイト「淘宝網(タオバオ)」(www.taobao.com)は、やがて中国一のECサイトに成長します。2004年にローンチした第3者向け決済プラットフォーム「支付宝(アリペイ) 」(www.alipay.com)の登録ユーザー数は、今年3月までに3億人に達しました。

 現在までのアリババの成功は以下を見れば明らかです。


<Alibaba.com(アリババドットコム)>B2Bサイト(2010年3月末)

  • 総会員数 5020万(国際サイト 1260万、中国サイト 3770万)
  • 出店社数 730万(国際サイト 150万、中国サイト 580万)
  • 有料会員数 65.8万以上 (国際サイト 11.6万以上、中国サイト 54.1万以上)

<淘宝網(タオバオ)>消費者向けECサイト

  • 会員数 1.9億人(2010年4月末)
  • 2009年流通総額 2000億人民元(日本円にして約3兆円)
  • 中国EC市場シェア 82.5%(2010年1月iResearch発表)

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