コストセンター子会社が自律的にコスト抑制に努め、その果実を確実に親会社に還元していくためにはそのマネジメントの高度化は必須である。高度化をすすめるには、1.管理会計の高度化、2.インセンティブ体系の明確化、3.子会社マネジメント人材の見直しの3つの視点が重要である。
まず、「1.管理会計の高度化」は子会社マネジメントを考える上での出発点である。先に、外部との取引の赤字を親会社との取引で穴埋めすることが割高要因の1つであると述べたが、そういった問題が生じるのも、コストがどんぶり勘定で大括りにしか把握されないことが原因である。
通常、事業別にコストが配賦、管理されていたとしても、その事業の中で対親会社取引と外部取引が適切に配賦できていないことが多く、その取引に必要な実質コストが分からない状態のまま、結果的に親会社取引に多くの費用配賦が行われていることも多い。このような状況を打開するために、親会社の子会社管轄部門とコストセンター子会社のマネジメントが共通の尺度で実質的な取引収益を可視化することが必要である。
次に、取引実態を明確にした後に取り組む作業は、「2.インセンティブ体系の明確化」である。コスト実態を丸裸にしただけでは、自律的なコスト抑制にはつながらない。コストセンター子会社のミッションはコストを徹底的に抑制することであると明確に定義し、その成果に対しインセンティブを付与する評価体系に変えていくことが重要である。ともすれば、コストセンター子会社でありながらプロフィットセンター同様の利益目標による事業管理が行われ、対親会社との割高な取引を助長する状態になっているケースも散見される。
また、利益管理が行われると、上記のコスト実態を明らかにすることに対しても後ろ向きになり、正しい数字のやり取りが行われないといった弊害も生まれる。コスト削減はすぐに結果の出るものからしばらく時間のかかるものまで混在するので、結果管理に加え目標設定とモニタリング体制の構築が重要である。
そして忘れてはならない視点が「3.子会社マネジメント人材の見直し」である。最近でこそ、コストセンター子会社のマネジメント層も中間管理職の人材育成の場として活用されるケースも増えてきたが、かつてこの役職は、親会社で幹部を務めた人材の「上がり」のポジションであった。そういった片道切符で派遣された人材は、骨の折れるコスト削減に尽力するよりも、社内人脈を通じ既存取引価格の維持に力を入れがちである。コストセンター子会社の幹部にとって必要な視点は自社の利益ではなく、グループ全体最適の視点であり、時にはそのコストセンター子会社自体をなくすという判断も必要になる。
グループ全体最適の視点を持った上で、地道に業務効率化に努め、人件費の適正化や勤務時間の変更といった労務問題にも対応する必要があるコストセンター子会社のマネジメントにもそれ相応の人材を配置することが必要である。場合によっては、中堅幹部の登竜門として活用していくことも、マネジメント人材不足への対応と人材育成という両面からも重要である。
最後に、低成長時代におけるコストセンター子会社保有の意味合いについて述べたい。冒頭で、低成長時代においては、各種周辺業務においてより専門能力をもち、安価にサービス提供する企業も増えてきていると述べた。しかしながら、業務の秘匿性・重要性から本来アウトソースにそぐわない業務もある。また、本業部分の成長が見込めない低成長時代における経営戦略として、自社がカバーするバリュチェーンを拡大するという考えも1つの戦略オプションである。こういった場合は、強力なマネジメントのもと、割高要因を取り除き価格競争力のあるコストセンター子会社を育成するということが企業経営上非常に重要となる。
(詳細は、書籍「最強のコスト削減」(東洋経済新報社)にて確認いただきたい)
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東京工業大学卒、東京工業大学院経営工学専攻修了。神戸製鋼所を経て、A.T. カーニー入社。同社戦略オペレーション・プラクティスのコアメンバー。製造業、小売・サービス業を中心に、経営戦略、事業戦略、組織設計、M&A、BPRなどのコンサルティングを通じ、企業変革を戦略立案とオペレーション改革の両面から支援。『最強のコスト削減』(東洋経済新報社)の執筆にも参画。神戸大学トップマネジメント講座非常勤講師を務める。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授