顧客企業の調達活動・戦略を理解した営業活動低成長時代を勝ち抜く営業・調達改革(1/2 ページ)

Part2では、その成功要件の1つである営業活動のターゲティングで触れた顧客企業で展開されている調達活動・戦略への対応について深掘りする。

» 2010年05月26日 07時00分 公開
[小崎 友嗣(A.T. カーニー),ITmedia]

 第1回は、営業における重要な3つの成功要件を述べた。今回のPart2では、その成功要件の1つである営業活動のターゲティングで触れた顧客企業で展開されている調達活動・戦略への対応について深掘りする。

 低成長時代を迎え、売り上げの回復、成長が遅れる中、多くの企業がコスト削減を業績改善の柱として取り組んでいる。2010年3月期の決算発表でも、コスト削減型の業績改善が目立つ。企業のコストは人件費と外部への支払いである調達費で構成されるが、人件費の削減は、リストラなどの大きな代償が伴うため、まずは、調達費を対象としたコスト削減に着手するケースが多い。この調達費削減も取り組みは売る側への影響が大きいが、中でも注目すべきトレンドは、調達部門の関与の高まりである。

 一部の原材料や大量調達品を除き、多くの品目の調達は、ユーザー部門が、仕様から調達先、そして、調達価格まで独自に売り手と交渉して決めるケースが多い。

 しかし、ユーザー部門の調達先の選定では、コスト以上に、使い勝手、すなわち、納期や供給や品質の安定性、アフターケアが重視され、コストの優先順位が低いケースが多い。さらに、調達後もユーザーとして売り手と直接やり取りが続くため、一度、調達先と条件を決めると、それを変更するインセンティブは低くなりがちである。

 調達業務はユーザー部門の本業ではなく、担当者が十分な価格交渉や購買のスキルを持ち合わせていない。従って、独自に調達コスト削減に取り組んだとしても、既存調達先に対し、価格引下げの可能性を打診する程度で、売り手との本格交渉や競争環境まで踏み込めないケースが多い。売る側の営業も、ユーザー部門からのこの程度の打診であれば、現状価格以下の値引きが困難な旨を繰り返しつつ、安定取引継続の重要性やメリットを訴えることで、既存取引の維持・継続が可能となる。

 しかし、調達費削減に本格的に着手した企業を中心に、これまでユーザー部門に調達を一任していた設備投資や一般管理費中の間接材調達でも、調達先選定、見積もり、最終的な価格交渉の一連のプロセスにおける調達部門の関与を高め、ユーザー部門単独での調達を減らす動きが広がっている。

 新たに調達部門が関与する場合、まず、ユーザー部門がこれまで続けてきた既存取引の見直しから着手し、同程度の品質やスペックを提供できる調達先を発掘し、調達先の入れ替えを前提とした相見積もりと価格交渉などの交渉テクニックを駆使して、調達価格の引き下げを狙う。

 これらの調達部門による取り組みは、売る側の営業活動に大きな影響を及ぼし、ユーザー部門との信頼構築をベースとした従来型の営業活動だけでは、単純な価格引き下げはもちろん、最悪の場合、取引を失うことにもなりかねない。当然、取引業者の入れ替えが進むことは、新規取引開始のチャンスの拡大にもつながるが、競争が徹底されるため、新規取引の旨味も従来ほど期待できなくなっていく。

 このように顧客企業の調達強化のトレンドは、売り手に厳しい影響を与えるが、そのようなトレンドの中で、営業を効率的かつ効果的に行うためのポイントが2つある。

 1つ目が、Part1でも触れた営業活動のターゲティングの優先順位付けの見直しである。これまで営業活動の優先順位付けは、顧客の規模や成長性、自社製品の特徴と顧客ニーズのフィットなどで行われてきたが、顧客の調達戦略が大きく変わる中、顧客の価格感度、すなわち、調達部門の関与度や調達方針・戦略までも考慮した優先順位付けが不可欠となる。規模や成長性が期待できる顧客であっても、調達部門が調達先・仕様・価格決定に強い影響力を持ち、経営計画やIRで調達費削減を明言し、価格に的を絞った交渉を強く迫ってくるような場合は、営業活動の優先順位を落とす、あるいは、思い切って捨て、営業担当者の活動時間や値引き原資などのリソースを他の顧客に振り向ける方が営業効率は高くなるのである。

 2つ目のポイントが、顧客企業の調達戦略とリンクした営業活動の展開である。

 ここまで読んで、調達部門の関与が高まることは、非合理な「価格叩き」につながるという印象を受けたかもしれないが、現実は違う。多くの調達部門は自身の調達経験から、一方的な価格叩きのデメリットを知り、売り手にも買い手である自分たちにも利点がある関係の構築や、合理的な主張に基づく交渉の重要性を踏まえた調達戦略を採用する。従って、売り手も調達サイドの調達戦略を理解した提案や動きを取れば、営業上の損失を最小限とすることが可能である。

 一方的に価格のみを“叩かれ”続けられてしまうケースというのは、顧客企業の経営が危機的な状況にあるか、あるいは取り扱い商材が供給過剰で売り手の間で過当競争が起きているなどの特殊な事業環境に陥っていることが考えられる。

 また、顧客が十分に調達戦略を理解していない、といったことも考えられる。前者の事業環境に起因するケースは営業の努力のみでは解決が難しいが、後者の単なる理解不足であれば、売り手が営業活動として、あるべき調達戦略に基づいた逆提案を行うことで、単なる価格叩きを避けることが十分可能である。

 ここで、このあるべき調達戦略を示す6つのソーシングダイヤモンドを紹介する。(詳細は「最強のコスト削減」(東洋経済新報社)参照)。売り手としては、これらの調達戦略を理解し、対応策を講ずることで、自らのメリットを最大化させることが重要となる。

出典:A.T. カーニー
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