具体的な組織の事例を使いながら、システムコーチが実際のチームに対して、いったいどのように働きかけるのか、その結果何が起こるのかをお伝えしたい。
前回は、皆さんにシステムコーチングとは何かをお伝えした。チームメンバー個々人にかかわるのではなく、チームそのものを「第3の存在」としてコーチングするアプローチには、若干戸惑われた読者も多かったかもしれない。
今回からは、具体的な組織の事例を使いながら、システムコーチが実際のチームに対して、いったいどのように働きかけるのか、その結果何が起こるのかをお伝えしたい。読者の皆さんが、ご自分のチームを思い出し、読み終わったときに、ご自分のチームに対して一歩近づき、何か1つアクションを起こしてみようと思っていただければ幸いだ。
まず、具体的な事例に入る前に、システムコーチはチームに対して何をするのかを整理するところから始めてみたい。
連載第1回目に、組織における「分断」についてつまびらかにし、皆さんの組織でこうした分断が起きてはいなかどうかを問いかけた。その結果、予想以上に多くの方から「まるで自分の組織のようだ」という反応をいただいた。特に経営層やリーダーと、現場の社員との間の分断はどの組織においても深刻なテーマだ。激しいグローバル競争の中で、変革とイノベーションが必須との判断から、新たな理念や経営方針が部下に示されるも、日々のオペレーションに忙しい部下のやる気に火をつけるのは難しい。
一方、部下の立場からすると、上司の唱える理念には賛同しても、現場における具体的なアクションのイメージがわきにくい。しかも、オペレーションの達成度で評価される人事評価制度の中で、失敗するかもしれないイノベーションにあえて踏み出す気持ちにはなりにくいのが本音だろう。理念を語る経営層、方針を語るリーダー、そしてオペレーションを語る現場は、まるで違った言語を話しているかのように、本質的な対話が成り立たないことが多い。
こうして、社内の選りすぐりのブレーンを集めて作りあげた企業理念や経営方針は「絵に描いた餅」と化し、イノベーションは起こらぬまま、日を追うごとに現場はさらに日常業務に埋没していく。気がつけば経営層の思い描く理念 現場のオペレーションとの間には大きな溝ができ、組織は分断された状況になる。
ここにシステムコーチングのニーズが生まれる。システムコーチはこのチーム内にある「分断」そのものに働きかけ、そこに対話の場をつくる。役職からくる立場の違いや日常のオペレーションからいったん抜け出し、チーム全員が同じ視座に立ち、共通の目的に向けて知恵を出し合う場をつくるのだ。またコーチは、その過程でさまざまなコーチングツールを使いながら、チームに何が起きているのかを明らかにしていく。チームという「生き物」は、自分たちの今の状態を自覚しさえすれば、本質的に必要な答えはおのずとチームの中から現れる。そこに力強いチームワークが立ち上がる。
今回から3回に分けて、ある企業の事例に対して、コーチが具体的にどのようにチームにかかわるのかをお伝えしていく。今回は、システムコーチングの前段階として、あるチームの現状をご紹介する。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授