大事なことは何度でも繰り返し言って聞かせるのは当然、そうかもしれない。だが現実には、なかなか言った通りに部下が動いてくれるわけではない。その課題の背後には、企業を取り巻く環境の変化もあった。
プライベートでも職場でもコミュニケーションが大切だ。だから繰り返し熱を込めて語ったし、さらに標語を作って壁に張るなどして目につく機会を増やした。でも相手は動いてくれなかった。相手は理解しようとする気があるのだろうか――。そんな経験は、誰にもあるだろう。それもそのはず、伝えようとする側の熱意や努力だけでは、なかなか相手に理解を得られないのが人間の性質だからだ。
理解しない相手が悪い、というわけでもない。
「一斉講義を行って半年後、その講義内容のあらすじを思い出せる人の割合はわずか2%。講義に出てきたキーワードだけでも思い出せるのは29%、残り約70%は、全く記憶に残っていない。そんな研究結果がある」と、東京大学 大学総合教育研究センターの中原淳准教授は言う。
教育学では、教える側が教えられる側に一方的に伝える方法を「導管モデル」と呼ぶ。知識や情報はあたかもモノのように学習者に伝達することができ、それによって学ぶことができる、という考え方である。一斉講義など一般的な授業の体裁はまさにその典型だ。この導管モデルに基づいた教育手法が長年にわたって使われてきたのは言うまでもない。ところが近年、実験などを通じて導管モデルの課題が徐々に明らかになってきた。そこで教育学者たちは、この課題を解決し、学習効果を高めるべく、さまざまな工夫を凝らしている。
ビジネスの現場でも、導管モデルのようなコミュニケーションが一般的だ。経営者が社員を整列させ、壇上で熱を込めてビジョンを語る、上司が部下を机に呼び寄せ指示を与えるとともにその重要性を語る、先輩が後輩に声をかけて仕事の心得を語る、いずれも人数はともかく、形の上でみれば前者が後者に語るのみ、導管モデルとみなすことができるだろう。
「多くの方が“俺だけ熱くて、社員は寒い”“一番学んでほしいことが伝わってない”、そんな感覚に陥った経験があると思う。ビジネスの現場では“伝えること”のニュアンスが一般より欲張りなようで“相手に理解され、行動に移されること”といったところまで含まれている」と中原氏は指摘する。
その背景にあるのは、以下のような論法だ。
となると、相手の行動に反映されないのは、伝える機会が足りないか、あるいは相手に理解する気がない、という考えに陥っていくだろう。機会が足りないなら繰り返し語ったり目につく機会を増やせば解決できるはずだし、それでも行動に反映されないのであれば、そいつの素質がない、と結論づけてしまう。
ところが伝えられる側の立場に目を転じてみると、以下のようになっている。
これでは、いくら努力したところで“伝わる”はずもない。もちろん、言いたいだけ言って、結果はどうでもいいというのであれば、このままでも構わない。しかし、重要なのは結果だ。そのためには、理解してもらうことが欠かせない。だとしたら、これまで通りのことを努力を繰り返すのではなく、新たな工夫が必要なのではないか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上
早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授