進まぬ変革、いら立つ経営者、結局は陣頭指揮しかないのか戦略コンサルタントの視点(1/3 ページ)

「想いと現場の取り組みが一体化していない」という問題に直面する経営者にとっての解決方法として「経営者の分身をいかに創り出すか」という考え方が挙げられます。

» 2010年08月10日 15時25分 公開
[大野 隆司, 大久保 達真(ローランド・ベルガー),ITmedia]

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 市場の急速な縮小、事業の存続を脅かす代替サービスの登場、M&Aに伴う事業統合など、環境の大きな変化によって、大規模な改革の迅速な実行を迫られる機会がますます増えています。

 残念なことに多くの企業では、改革は思い通りには進みません。「経営者の想いと現場の取り組みが一体化していない」という問題に直面しつつも、解決できないためです。

 この問題を解く糸口として「経営者の分身をいかに創り出すか」という考え方が挙げられます。今回はこの考え方を発展させた改革推進組織について考えてみることにします。

変革期、焦り苛立つ経営者

 ほとんどの経営層の方々(=経営者)は、組織が直面している危機の大きさを実感しており、組織に求められる変革のスピード感も直感的に把握しています。

 しかし、危機意識とは裏腹に、変革に向けた動きはなかなか組織には浸透しません。そもそもプロジェクトをスタートできない、なんとかスタートはしたものの、動きが鈍い、検討に時間をかけたが成果が出ない、といった事態はよくある光景です。

 その中で危機の全体を俯瞰している経営者にはいら立ちと焦りが募ります。

伝わらない想い、見えない現場、届かぬ本音

 プロジェクトが大型化し、参画メンバーが増えてくると、経営者は自分の意志や意図が現場に正確に伝わらない、現場の実態が見えにくいといった悩みに直面します。そして、気がつけばプロジェクトがあらぬ方向に進みながらも、惰性が止まらない、しかしプロジェクト現場での陣頭指揮ばかりには時間を使えない、というジレンマに陥ります。

 現場では「こうした方が効果が出る」と思うことも、経営者の指示の方を優先させて進めがちです。現場の状況に基づくこのような直感には傾聴すべき部分も多いのですが、そういう声は経営者にはなかなか届きません。

 有能と評価されている社内スタッフを集めても、このような悩みは発生するものです。なぜなら、有能との評価は従来の仕組みやこれまで成功パターンの中で発揮されてきたものだからです。過去の成功体験が強いほど、彼らが現状を否定し、自律的に変革に取り組むことは難しくなります。

 いったいどのような改善策が考えられるでしょうか。

EIO:Executive’s Intelligence Officeという考え方

 EIOはローランド・ベルガーの多くの戦略コンサルティングとプロジェクト・マネジメントの経験、そして経営者の方々の悩みのご相談を経て、作り上げられた改革推進組織のあり方です。

 EIOは、以下の役割を果たします。

  • 経営者の思いを受け止め、経営戦略を素早く適切に読解し、必要なプロジェクトを定義し、順次立ち上げていく
  • 多くのプロジェクト群を横串管理し、進捗や品質、そして効果創出を担保する
  • プロジェクトに直接入り込み、現場の不安や不満を察知し経営者による対応を提案する
  • プロジェクトの現場へ、経営者の狙いや意図を解釈・説明し、現場と経営の足並みを揃える

 EIOは、言わば経営者の頭脳と目と耳の「分身」となり、時間の限られる経営者の代わりに現場に赴き、改革を推進します。

 以下では、EIOの主な役割について、ケースを交えて具体的に説明します。

経営者の脳、経営者と同じ視座と思考回路を持つEIO

 経営者からの指示は、明確・簡潔・実現可能性、そして大胆なチャレンジを伴ったものであるべきです。

 経営者はしばしばアイデアや懸念を思いつくものです。しかし、それらは漠然としたものであったり、場合によっては誤解に基づいたものであったりすることが避けられません。ただ、経営者は常に忙しいため、自分のアイデアや悩みを、時間をかけて詰めていく暇がありません。

 EIOの重要な役割の一つが経営者の「ふと思いついたアイデアや悩み」の迅速な具体化です。

 EIOは経営者からアイデアや悩みを受け、即座に検討に入ります。それらの戦略との整合性はもとより、オペレーション面での実現可能性や障害の識別、費用対効果、プロジェクトメンバーの適任者の選定までを短期間で作り上げます。そして、経営者と議論しながら、実現方針やプロジェクト計画として完成させます。

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