記事の冒頭で触れたように、葉石さんは「おひとりさま向上委員会」の代表を務めていた2005年に、「おひとりさま」という言葉が流行語大賞にノミネートされる栄誉に浴している。
この言葉は、ジャーナリストの岩下久美子さん(ストーカー問題を日本で初めて取り上げた人でもある)が考案したキーワードだが、2001年に岩下さんがタイのプーケット島で不慮の死を遂げたのち(享年41)、葉石さんがその遺志を受け継いで、日本に広めてきたと言えばよいだろうか。
しかし流行語というものは、一定の閾値(いきち)を越えて広がると、一人歩きを始め、その本来の意味から次第に違う意味の言葉へと変容してゆく。最大の問題は、その過程において本質的な意味内容が失われ、換骨奪胎される点である。
「おひとりさま」という言葉も、例外ではなかった。今や、この言葉を聞いて想起するのは、「1人で飲食店に入ってゆく女性」あるいは「(恋人や夫のいない)寂しい女性」というイメージではないだろうか?
「それは、もう全然違うんですよね」と、葉石さんは嘆かわしそうに首を振る。
「"おひとりさま"とは、精神的に自立した大人の女性のことです。ただし『男なんかに負けてたまるか』と肩を怒らした、仕事命の猛女タイプの女性ではありません。仕事を大切にしながら、自分だけの時間も楽しみ、なおかつ彼氏とか家族との時間も充実させることができる。ゆとりのある、柔らかでしなやかな女性を指しているのです。その背景には、スーツの時代が終わり、日本の文化的伝統をベースにした、和のゆったり感が主流の時代へとシフトしたという時代認識があります」
このように自立した、しかも余裕のある女性であればこそ、例えば1人で気の利いた温泉宿に行きたいとも思うであろうし、気に入った料理屋に1人で行きたいとも思うだろう。しかしつい最近まで日本では、女性が1人で有名旅館や高級ホテルに宿泊しようとすると、自殺志願者か何かのように思われて宿泊を拒否されることも多かった。また、レストランやバーに1人で入ろうものなら、「逆ナンパ」か何かのような好奇の目で見られることも実際に多かった。
そうした男性社会の偏見をなくしていくため、「おひとりさま」という言葉をキーワードに地道な働きかけをしていったのが葉石さんたちの活動だったと、私は理解している。だが現実には「おひとりさま」は、「ひとりで旅館や飲食店に行こうとする、パートナーのいない寂しい女性」を指す語として社会に定着してしまった。いや、定着を通り越して今や死語になりつつある。
「ですから、本来の"おひとりさま"の意味内容を含んだ、しかし、まったく新しい言葉を社会に提案しようとしているところです。どんな言葉か? それは乞うご期待ということで(笑)」。
今度こそ、葉石さんの意図が正しく伝わることを祈りたい。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授