現在、バングラデシュに進出している企業は97社(事務所含み)である。従って、多くの日本企業にとっては、バングラデシュへの進出はこれからの話になるはずである。そこで、これまで述べてきたバングラデシュの繊維産業の実態を通じて、これから進出しようとする日本企業がバングラデシュをいかにとらえるべきかについて、わたしの考えを述べる。
1. 日本市場向けではなく、世界市場向けの拠点としてバングラデシュをとらえる
日本企業の多くは、労働単価の安い新興国企業を使って、日本向けの製品を生産・製造させ、そのコスト競争力で日本市場に投入するという方法を採ってきた。これまでは、その役割を中国に求めていたが、中国の人件費高騰を機に、チャイナ+1として、バングラデシュに同じものを求めるとすれば、それは大きな誤りである。伊藤忠商事は、20年という歳月をかけて、日本市場で戦える工場をバングラデシュで育成してきた。
すなわち、日本市場向けに育成していくということは、一朝一夕ではいかないのだ。また、バングラデシュ企業は、既に欧米市場でその実力を認められ、グローバルな視点でビジネスを進めているのである。こうした企業に、日本市場が求める特殊な仕様や品質をこれから求めていこうとするのは、愚考と言わざるを得ない。
これから進出しようとする日本企業は、バングラデシュから拡がる欧米市場やイスラム市場といった世界市場を狙いとするべきである。バングラデシュ企業は既にそれらの市場との間に関係を築いており、日々その評価を高めている。日本企業は、バングラデシュを世界に通じる拠点としてとらえ、自社の製品を流通させるスキームを考え、バングラデシュへの進出を図るべきである。
2. バングラデシュ企業と相互補完し、新たな価値創造に挑む
バングラデシュを世界市場向けの拠点としてビジネスを展開していくためには、日本企業とバングラデシュ企業が相互に補完し合い、生かし合う関係を構築する必要がある。それぞれの強みと弱みを組み合わせ、新たな価値を創造し、世界に発信しなければならない。
バングラデシュの衣料品サプライヤー企業は、欧米市場やイスラム市場といった世界市場との間に関係を築いており、世界標準を満たす製品製造能力を有しているが、原糸や布帛の生地を中国からの輸入に頼っているという課題も持ち合わせている。こうした点を日本企業が支援することはできないか。例えば、バングラデシュでは、原油を輸入して、石油精製を行っているが、副産物のナフサはすべて海外に輸出している。合成繊維の原料となるナフサを有効に活用し、ポリエステルなどの素材を作り出す工程を、日本の化学産業が支援・参画し、バングラデシュ国内で一貫した衣料品生産体制を構築するということも考えられるのではないか。
逆に、日本は、高い技術力と徹底した品質管理という強みがありながら、欧米に存在するような世界的なアパレル企業やアパレルブランドがほとんど存在しないというのが実状である。この点については、世界の市場で標準的に求められている品質レベルや製品仕様、あるいは求められるデザイン性を知っているバングラデシュ企業と協調し、新たな価値を付加したアパレル企業やアパレルブランドを世界の市場に展開するということも考えられるだろう。このような相互補完から生まれる新たな価値創造こそが、日本企業が考えなければならない新しい関係である。
辻 佳子(つじ よしこ)
デロイト トーマツ コンサルティング所属コンサルタント。システムエンジニアを経た後、アクセンチュア・テクノロジー・ソリューションズにて、官公庁や製造業等の企業統合PMIに伴うBPR、大規模なアウトソーシング化/中国オフショア化のプロジェクトに従事。大連・上海・日本を行き来し、チームの運営・進行管理者としてブリッジ的な役割を担う。現在、デロイト トーマツ コンサルティング所属。中国+アジア途上国におけるビジネスのほか、IT、BPR、BPO/ITOの分野で活躍している。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
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明治学院大学 経済学部准教授