グラミンバンググループは、「Banking for the Poor」というスローガンを掲げ、貧困層に向けて担保をとらずに融資を行っており、2010年6月現在、828万人の借用者がおり、その97%は女性だ。ファーストリテイリングは、こうした債務者のネットワークを用いて、貧困層の職業訓練に取り組み、服の対面販売という職業に就く機会をバングラデシュの女性に提供する。
つまり、まずは雇用するバングラデシュの女性たちに対して、保健衛生と女性用下着を提案するところから始まるのである。そこを起点に、保健衛生に係る教育啓発を推進し、雇用創出と利用創出を図っていく。なお、合弁会社「ユニクロ・グラミン」では、初年度は250名の雇用創出を目指し、3年後には1,500名まで増やすとしており、こうした従業員がまた保健衛生に係る教育啓発をバングラデシュ全土に広げて行くことになる。
これは、ファーストリテイリングからバングラデシュの社会に対する大きな提案であることが分かる。その提案内容は、保健衛生という社会的に意義のあるものであり、当然、ファーストリテイリングのビジネスを確立する目的を帯びたものである。しかし、これは、社会や市場に対するフェアなアプローチであると言えよう。
工場を建てて既存産業の製品を作る労働環境を与えたり、施しや寄付のような形で物を押し付けたりするのではなく、新興国の社会や市場に提案する。新興国の社会と先進国の企業が向き合って、提案が受け入れられれば、文化や慣習がシフトし、新たな市場が生まれる。これこそが、これからのソーシャルビジネスの形ではなかろうか。
近年、NGOやボランティア団体が後進国や先進国で活動した末に、資金問題等を理由に2、3年で引き上げてしまう話がたびたびある。ソーシャルビジネスに取り組む企業も、根幹は営利目的であるから、経営にとって大きな荷物となれば、撤退していくことになるだろう。しかし、ソーシャルビジネスを社会に対する提案としてとらえ、それが受け入れられたならば、仮にその企業が撤退していったとしても、中・長期的に継続される社会の構造を作り上げたことになる。ソーシャルビジネスであるからこそ、社会に対する提案という姿勢が重要なのである。
ファーストリテイリングのこのソーシャルビジネスがうまくいくかどうかはまだ分からない。また、相当の期間と根気が必要であろう。しかし、こうした取り組みこそが、日本企業や日本の新興における起爆剤になる可能性は極めて高い。日本企業が、新興国の社会や市場に対して提案できることは、少なくない。新興国とともに、日本が新興する道はここにもあるのだ。
辻 佳子(つじ よしこ)
デロイト トーマツ コンサルティング所属コンサルタント。システムエンジニアを経た後、アクセンチュア・テクノロジー・ソリューションズにて、官公庁や製造業等の企業統合PMIに伴うBPR、大規模なアウトソーシング化/中国オフショア化のプロジェクトに従事。大連・上海・日本を行き来し、チームの運営・進行管理者としてブリッジ的な役割を担う。現在、デロイト トーマツ コンサルティング所属。中国+アジア途上国におけるビジネスのほか、IT、BPR、BPO/ITOの分野で活躍している。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
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明治学院大学 経済学部准教授