この疑問を宮田麻美氏に尋ねた。彼女によると、バンコクで生活する日本人もオペレーターとして仕事をしているそうだ。わたしは、虚を突かれたような感じがしたが、よく考えてみると、彼女も現地バンコクで生活し、ここで業務マネジメントを担っているのである。それは、納得がいく話だ。
バンコクには多くの日本人が訪れる。その多くは短期間での旅行だが、この街に魅かれ、生活の拠点を置く日本人も少なくない。また、数カ月という単位で滞在する学生や若者も多いようだ。こうした日本人が日本向けカスタマーサービスの担い手となるのである。もちろん、賃金は現地の水準だが、タイに夢や希望を持って訪れ、そこで生活する日本人の学生や若者にとって、使い慣れた日本語を用いて生活の糧を水準通りに得られるのは悪い話ではない。タイ語や英語に堪能でなくても現地で生活基盤を構築することができるのだ。
アウトソーシングサービスを提供する企業としては、日本語を不自由なく使いこなすことができるオペレーターをバンコクの給与水準で雇えるのはメリットだ。これを、企業がバンコクに在住する日本人を安く雇い搾取している、と解釈するのはおかしい。賃金の妥当性というのは、生活拠点を置く経済圏で考えるべきだからである。バンコクで生活する日本人に日本語を使う職業機会を提供し、その経済圏での水準に見合った賃金を支払うことに問題はない。
実は、宮田麻美氏はわたしのかつての同僚で、ともに日本企業のIT管理業務をBPO/ITOサービスとして中国の大連・上海に移管する業務に携わっていた。そういう共通のバックグラウンドがあるからか、自然に、かつて中国などで経験したオフショアBPOと、今ここタイ・バンコクで見られるオフショアBPOの違いに話が及んだ。
かつてわたしたちが経験したオフショアBPOでは、日本語のみならず、日本式の業務や慣習を徹底的に教育・指導し、あたかも日本人がサービス提供しているかのように、業務を実施する。これは、日本語という言語的な壁に覆われている日本の特殊性がそうさせている面がある。
米国の企業は、インドのBPOサービスを多く利用しているが、これは英語という共通言語だから成り立っているものだ。少なくとも、日本国内の業務やサービスを海外に移管するよりも、米国国内の業務やサービスを海外に移管することのほうが容易であり、それは英語という共通言語が用いられていることに依るところが大きい。
すなわち、このようなオフショアBPOは英語圏の国々に比べ、日本は明らかに不利である。これを英語圏の国々と同等レベルで実現するためには、日本の公用語を英語にしてしまうほどの対策が必要なのかもしれない。
しかし、今ここタイ・バンコクで見られるオフショアBPOは、日本語という言語的な壁を突破できる新しいモデルである。海外にいる日本人が日本向けのサービスの担い手となるからである。「日本人の、日本人による、日本人のためのビジネス」という形で行われる。このモデルは、さらに新しい可能性を秘めているのだ。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授