NECに話を戻す。同社は前記したようにPC=98という一時代を築いた。また、携帯では「二つ折りケータイ」の先駆者となり、こちらも長らく携帯端末首位の座を保った。恐らく、両社には成功体験を具現した人たちが大勢いて、技術面での開発に切磋琢磨していたのだろうが、彼らのほとんどはNTTドコモのようなオペレーターに目が向いていて、ユーザーに気を配ることなどなかったのではないだろうか。
話はクライアント・デバイスにとどまらない。クラウドコンピューティングでも使用される機材の多くは安価なCPU(その多くはIntelかAMD製)を使用するサーバだということは誰もが理解していたが、高性能サーバにばかり目を奪われ、ユーザーが実際欲するような安価で、安定した性能を持つサーバの開発には身が入っていなかった。その結果、携帯端末、PC、サーバの各事業が連鎖的に悪化していった。
NECの例は、一コンピュータベンダーに限って起こった出来事ではない。日本の企業はおおむね同じような体質を強く持っている。米企業なら、不採算部門、事業所は要員も含め常に廃止、改変の対象になるが、日本の場合、経営者の判断に常に情実が絡んでいる。また、新しい技術を開発しても、従来の組織との整合性や縄張りにとらわれ、製品の投入時期を失ってしまう。その部門の権威者が新しい技術の評価を誤る場合も多い。
その中で、僕が最も致命的だと思うのは経営者のイニシアティブだ。僕は仕事上の付き合いで、その下位にあたる役員と話すことが多い。最近ではもっぱら「クラウド」が話題の中心だが、経営者が熱く語る「クラウド」について、担当役員がどのように捕らえているのかが手に取るように分かる。
彼らのほとんどは「どの企業もクラウドの話をしているので、弊社でも同じように取り組んでいるような姿勢を見せなければならない」と受け取っている。会社の存亡がこれにかかっていると考えている人たちは残念ながら少数であるのが現実だ。つまり、経営者のイニシアティブは全く発揮されていないのだ。
21世紀になり最初の10年が過ぎたが、この10年間で様変わりしたのは中国であり、韓国だ。中国は20世紀、世界の工場という地位に甘んじていたが、21世紀になり、世界で最も魅力ある市場として認識されるようになった。韓国はしょせん日本の二番煎じというそしりを受けていたのが、21世紀には日本企業を脅かす最有力候補になった。
両国の主要な企業の経営者は、度々The EconomistやForbesで取り上げられるが、日本の企業のトップでそのような人物は皆無に近い。それが、日本社会に巣くう病巣だ。
新しい酒(新ビジネス)は、新しい皮袋(ベンチャー企業なり社長直属の部署)に入れなければならないという大原則を守らない限り日本のあしたはない。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授