予測できない変化の連続で、複雑性を増す世界市場。その中で日本企業が競争力を高める道は? 日本IBM GBS事業 執行役員 ヴァイスプレジデントの金巻龍一氏に聞いた。
IBMによるグローバルのトレンドを示すリサーチ「IBM Global CEO Study」も既に4回目を迎えた。「今回のサーベイから見出せるのは複雑性(Complexity)だ」と日本IBM GBS事業 戦略コンサルティンググループ 執行役員 ヴァイスプレジデントの金巻龍一氏は指摘する。一般にはあまり良い意味で使われることのない“複雑性”という言葉だが「視点を変えれば、複雑性を恐れない組織を構築すれば企業競争力の源泉になるということ」と金巻氏は話す。
加速する複雑化の例として金巻氏は、新興国の経済成長を挙げる。例えば、2007年から2009年の間にインドで発生した中産階級は、イギリスの既存の中産階級とほぼ同数だという。これはインド市場の成熟化が急速に進んでいること示しており、もはや“新興国向けには安い製品を投入すればよい”という状況ではない。
また中国においては、年収3000万円以上という富裕層が日本の2倍いる一方、経済格差の問題が大きくなっている。ではグローバル化を目指す企業は、各国の市場に対応できるよう、国別、地域別に事業戦略を立てるべきだろうか? 金巻氏は「私はそうは考えない」と話す。
同氏によると「目指すべきは、地球で1つの会社になること」だという。「しかし多くの日本企業は、グローバル化を単なる国際化と捉えてしまっていた」(金巻氏)。例えば中国に進出して製品を売ればそれはインターナショナル化だし、さらに東南アジア圏にもビジネスを広げればマルチネーション化だと言えるだろう。しかし「それは日本企業が海外で商売をしているに過ぎず、地球で1つの会社――すなわちグローバル化したとは言えない」(金巻氏)
従来のグローバル化――その実、単なる国際化――においては、いかに遠くの国や地域まで営業をリーチできるかが問われていた。だが金巻氏は、現在求められるグローバル化について「状況が日々変わるのは当然。だからこそ、いかに自社のビジネスに有利な状況を選んで戦えるかが重要だ」と指摘する。
IBM Global CEO Studyによると、日本企業の多くは、環境変化は予測可能であり、また予測できるような組織にしなければならないと考えているようだ。だが韓国企業の約90%は「環境変化は予測できない」としている。つまり彼らの考え方は“まず予測不可能であることを認めないと、経営のモデルが作れない”というものだ。
金巻氏によると「IBM自身もこの見地に立ち、クォータリープランニング/ウィークリーマネジメントの経営スタイルを採っている」という。これは“複雑性や環境変化を予測可能と考えるのは甘い”と考えていることを意味する。他方日本企業の場合、イヤリープランニング/マンスリーマネジメントを採ることが多い。われわれは変化に対応することよりも、予測すること・計画通りに実行することを重視してしまっているのだ。
金巻氏は「誤解を恐れず言うが、予測をもとに事業を計画する、という考え方は間違いだ」と指摘する。
今、サムスンの市場競争力が高く評価されている。IBMはその理由を“予測にこだわらず、その時々のニーズに合わせて、生産ライン上の製品を変更できるから”と捉えているという。変化することは当たり前なのだから、変化した瞬間に製品を投入する(プロセスドリブン)ことを重視しているのが、サムスンの強さの源泉だということだ。“市場の変化を予測した上で、国内でできていることを海外市場でもやれば勝てる”という日本企業の手法と、“予測はできないからその時々の必要性に応じた変革をする”と考える諸外国企業の手法は対照的だといえよう。
では日本企業はどうすべきか? 金巻氏は「IBM Global CEO Studyを通じ、高業績企業ほど複雑な状況を単純化する傾向にある」と指摘する。
例えば現在、IBMの購買調達拠点は世界に7カ所となっている。日本IBMの業務部門のオペレーションも、そのほとんどは海外で行われている。
各ビジネスプロセス(業務部門)のオーナーは、グローバルに11人いるというが、彼ら一人ひとりが、いちいち相互に調整したりグローバルの市場動向を予測しようとしたりしていたら、オペレーションの効率が悪化してしまう。プロセスを思い切り単純化――つまり片寄せした後、大きな問題が発生した場合だけ調整するという手法を基本としているという。
つまりグローバル企業では、改革することが常態だとも言える。そのため、予測してプロセスを構築するのではなく、プロセスを交換できるガバナンスを、どうやって組織に入れ込むかが重要なのだ。
このプロセス交換の枠組みが、BPMと言われる手法になる。BPMは、日本がもともと得意としていた継続的変革――つまりカイゼンにその起源を求められる。グローバル企業は、日本に起源がある手法を取り入れ成長している。「日本企業は、もっと自信を持つべきだ。彼らは、日本企業をベンチマークしているのだから」(金巻氏)
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授