このように見てくると、50代社員は役職定年などを迎える50代前半からまるで、自分を殺しておとなしく働くことが求められているように捉えられる。確かに“はた迷惑な働き方”や、“怠けた働き方”をしている人にはそのようなこともいえるだろう。
しかし、肝心なことはポスト・オフ(役職離脱)になる人が今後ますます増える中で、その人たちが企業の期待を感じ、自らの目標をもち、主体的に生き生きと働き続ける現役社員を作り出すことが大切である。
役職定年前後の50代社員のキャリアカウンセリングを行っていると、この会社でこんな仕事をさせてもらってホントに幸せですよ、という「生き生き現役」の方に出会う。環境変化を受け入れ、過去の会社人間としての競争的な生き方を変え、組織の中で上手に自分を活用することを体得した人たちだ。
この人たちは、自己の能力や意欲を過度にセーブすることもなく、企業が期待するところの働き方と自分らしい働き方を見事に調和させている。長く努めた企業で働かせてもらえる“感謝の気持”ちと、「自分を活かせる仕事とともに生きる幸福」を見出した人たちだ。思わず「幸福なキャリア」ですね、と言いたくなる。その方たちに共通していることをいくつか挙げてみよう。
・肩書きはいずれ会社に返すものという感覚があり、管理職に未練を残さない。
・若い上司の邪魔をしない。こちらから教えにいかない。会議などの公の場で上司を“指導”しない。
・得意分野の仕事で専門知識や社内外の人脈など現役感覚が失われていない。
・新しい仕事でも早くなじみ、期待に応じ、工夫や改善を試み、組織や人の役に立つ実感を持っている。
・色々な部署や仕事を経験し、その経験や知識、人間関係が生きておりどこにも“縁者”がいる。
・若い人ともコミュニケーションがとれ、気楽につきあっている。会社の年配者同士の仲間も多い。
・若い人と競争するのではなく、若い人の成長を誉めることが上手い。
・未経験の仕事や新たな人間関係になっても、新たな仕事や人間関係を築く良い機会がうまれたと楽観的に考える。
・働く以上は、愚痴を言わず周りを明るくする、といった心がけと自分なりに会社に貢献する自覚がある。
どうだろうか。50代社員の多くが、会社の処遇や仕事評価に不満を蓄積しがちな環境の中で、「自己活用」に向けて見事な感覚とスキルをもち、企業の良き社員であり続けることの自負を失わない人たちもいるのだ。その人たちの働く意識を図式化してみると図表‐3のようになる。個人の新たな環境への適応として、期待の変化を読み取り、自らの強みを理解した上で、新たな組織や仕事に適応していく理想モデルだ。
もっとも大切なことは、「働く幸せの発見と自覚」が生まれることだ。自己抑制になりがちなこの適応過程を、自分を作りかえるひとつのチャンスと捉え、「仕事とともに自分らしく生きる」ところまで、“自己昇華”できれば、新たな「自己一致感」が形成されるのである。
この図式は、役職定年などの強いキャリアショックを乗り越える場合に、個人が変化の受容、意識転換、行動変容を行いながら、新しい環境への前向きな適合を図るための共通モデルとなりえるだろう。
次回は、企業がこのような人材への変化を促すキャリア支援の取組みについて考えていきたい。
1953年生まれ。大学卒業後、日本マンパワーに入社。教育事業部長、人材開発営業本部長を経て、その後再就職支援事業部門を立上げキャリアカウンセラー&人事・キャリアコンサルタントとして事業に従事。1997年以降、キャリア支援コンサルタント、キャリア・デザイン・プログラムの開発・インストラクター、キャリアカウンセリングなどを経験。現在教育研修&人材事業担当取締役。CDA(キャリア・ディベロップメント・アドバイザー)、メンタルヘルスマスター。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授