バンテックは約3年にわたって、全社的なシステム刷新も進めている。老朽化した経理用システムをSAPでリプレースし、多様な経営情報をSAPに一元的に集約。その分析のため、BIツールの利用環境も整えた。Microsoft Exchange Onlineの採用と、プライベート・クラウドの構築は、全社のシステム刷新の一環と位置づけられた。前者の選定理由は「他社のクラウドと比較して企業向けの機能が豊富に実装されていた」(加松氏)ことである。
新たなメールシステムは2010年10月より本格稼働を開始したが、当初はクラウドならではの使い勝手に戸惑う社員も少なくなかったという。社外の複数のメールサーバにアクセスするクラウドの仕組みゆえ、「システム全体はダウンしていなくても、隣席では利用に問題がないのに、自席ではメーラーのレスポンスが悪いというような状況も発生する。」(加松氏)からだ。
ただし、クラウドのメリットは、このような問題が気にならないほど大きかったという。とりわけ加松氏が高く評価するのが、利用者数に応じた月々の利用料だけでメールを利用できる点だ。「サーバやストレージを二重化して業務に耐えられるメールシステムを再構築し、併せてID管理といったセキュリティのための仕組みを整えた場合、そのためのコストは極めて高額になる。だが、クラウドの採用によって、自社では採用をためらうほどの投資が必要な高度なシステムを、わずかなコストで利用できるようになった」と加松氏は強調する。
また、従来から行ってきたメールデータの自社保管も、Mirosoft Exchange Onlineではデータが10年間保管されるために不要となり、コンプライアンス対応、リスク対策も強化された。さらに、最新のウイルス対策アプリケーションが採用されており、ウイルス対策も徹底された。
バンテックでは現在、プライベート・クラウドの構築を通じて社内に乱立する約200台ものサーバの集約作業を進めている。数十台にまでサーバを削減することが最終目標であり、本年度はまず30台の物理サーバを集約する計画を推進中である。
一方で、同社はさまざまな管理業務アプリケーションの集合体ともいえる物流システムを抱えており、顧客ごとに微妙に異なる要求に対して、各アプリケーションをカスタマイズすることで対応。その結果、類似のシステムがいくつも並存し、運用・保守業務の負荷が高まる事態を招いていた。そこで、同社はそれらの業務のアウトソースを実施。この取り組みを進めるにあたっては、アウトソーサーに対してグローバルかつマーケットスタンダードでの業務システムの文書化を重要な要件の一つとし、これまで存在しなかったり、不完全だったドキュメントの整備を一挙に実現した。
「業務プロセスを文書化できた意義はJ-SOXやISOの観点からも極めて大きい。また、これによってアウトソース先に不満があれば、いつでも容易に変更が行えるようになった」(加松氏)
バンテックでは海外にも多くの拠点を抱えているものの、ことシステムの整備に関しては現地への依存が高いという。だが、一連の施策を通じて運用・保守コストが削減され、人的リソースも確保できたことから、浮いたコストとマンパワーをグローバルでのITの標準化・統一化にまわし、ITガバナンスの強化にも取り組んでいる。
加松氏は今回のプロジェクトを次のように振り返る。
「乗り越えるべき課題はいくつもあった。だが、諦めていては前進はなく、何もしないことの方が長期的に考えれば問題が大きい。そうした中、当社が次のステップに進む上で、クラウドは極めて有効な手段であり、パブリッククラウドとプライベートクラウドと混在する環境もうまく運用しようとしている。イノベーションを興すためにも、クラウドを上手に活用することが情報システム部門に求められているのだ」
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