クラウドを利用すれば、一定の適正な利用料を支払うことで、自社では構築が難しい高度・高価なアプリケーションの利用環境を整備できる。その点を高く評価し、バンテックはマイクロソフトの「Microsoft Exchange Online」で、クラウドベースのメールシステムを整えた。
情報システム部門は従来の「縁の下の力持ち」から、企業の価値創造に貢献する部門へと脱皮することが強く求められている。その実現にあたって今後、欠くことのできない存在になると目されているのがクラウド・コンピューティング・サービス(クラウド)だ。クラウドを利用すれば、ビジネス部門の求めに応じて、必要とされる仕組みを迅速かつ低コストで整備することが可能。その結果、情報システム部門の主導による業務変革も実践できると考えられる。
その実現に向け、日産自動車の物流子会社と東京急行電鉄のフォワーディング子会社の統合によって2005年に誕生したバンテックは、それぞれ異なっていた社内のメールシステムをマイクロソフトの「Microsoft Exchange Online」でリプレースし、クラウドベースのメールシステムを整備。併せて現在、データセンタにおけるプライベート・クラウドの構築にも取り組んでいる。
国内ではクラウドの活用に乗り出す企業は、現状、まだまだ少ないのが実情だ。そうした中、同社が他社に先駆けてクラウドを採用できたのはなぜなのか。導入を指揮し、バンテックの執行役員で情報システム部長を務める加松哲夫氏は、3月8日に開催された「第21回 ITmediaエグゼクティブセミナー」の特別講演で、その理由を次のように話した。
「情報システム部門は多くの場合、財務やマーケティングなどの取締役によって統率されることが多い。だが、当社は社長とのコミュニケーションがよかった。IT戦略委員会やIT審議会という会議体も機能し、情報システムを統括するわたしと社長をはじめとする経営層が密にコミュニケーションし、認識統一が図れ、クラウドのメリットを直接訴えられた効果が極めて大きかった。当社も他社と同様、いわゆるリーマンショックの痛手から立ち直りつつあるが、事業をさらに加速させる上で、クラウドの有効性を無視することができなかったのだ」
一般に企業のIT投資の7〜8割は保守・運用に充てられ、戦略投資に回される割合はわずか2〜3割にすぎないとされる。バンテックでも硬直化し、肥大化した古いアプリケーションがいくつも存在したことから、戦略投資の割合は23%程度にとどまっていたという。
こうした状況を改善するために、同社情報システム部は統合にあたり(1)イノベーション推進課(2)ソリューションシステム課(3)基幹システム課の3つを新設。(1)はイノベーションを興すことを、(2)は開発保守を円滑に行えることを、(3)はインフラを強固にすることを、それぞれ目的とする部署である。だが、日々の業務が多忙を極めていたことから、せっかくの新組織もスタート当初は、うまく機能しなかったのだという。
これらのことを踏まえ、加松氏が取り組んだのが、クラウド、アウトソーシングなどの活用を通じた、情報システム部門における日常業務のスリム化であった。
「当社は他の多くの物流会社とは異なり、情報システム小会社を抱えていない。ならば、業務の外部委託を進めることで、情報システム部門が戦略的なITの活用に専念できる環境を整えようと考えた。そのための具体的な手法がクラウドの採用であり、アウトソーシングの活用であったのだ」(加松氏)
業務で用いる以上、実際に利用するクラウドやアウトソーシングは各種の要件を満たす必要がある。加松氏も、その選択にあたり「俊敏性」「信頼性」「セキュリティ」の観点から、サービスの見極めを進めたという。その結果、たどり着いた「解」が「アプリケーション・ポータル」型の考えにのっとり、クラウドのサービスや各種のアプリケーションを統合するアプローチであった。この方法であれば、その仕組みからアプリケーションの互換性を保ちつつ、サービスをグローバルに展開することが可能となるからだ。
「アプリケーション・ポータル型であれば、各種の業務アプリケーションを仮想基盤上に移行させ、その運用管理業務をサービス事業者に委託することが可能になる。今後、業務負荷を軽減させるために、この手法でアプリケーションを外部に切り出す企業が増えるはずだ」(加松氏)
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明治学院大学 経済学部准教授