ガートナージャパンのアナリスト、本好宏次氏は、SAPの動きが情報システムについて日本のソフトウェアベンダーやユーザー企業の考え方を変える可能性があると指摘した。
SAPは5月17日から3日間、年次イベント「Sapphire Now」をドイツのフランクフルトと米オーランドで同時開催した。SAPは、オンデマンドアプリケーションの開発および7月の最新版提供や、ソーシャルアプリケーション化を意識していることを強調した。フランクフルトの会場に足を運んだガートナージャパンのアナリスト、本好宏次氏に話を聞いた。
ITmedia 今回Sapphire Nowに参加してどんな印象を持ちましたか?
本好 今回は、ビル・マクダーモット氏とジム・スナベ氏の2人による共同CEO体制になって約100日間というタイミングでした。出てきたビジョンは「オンプレミス、オンデマンド、オンデバイス」「コンシューマーITへの取り組み」をはじめ、分かりやすかったと感じます。一方で、こうした領域はSAPにとっては新しいものであるため、難しい面もあります。特に、SAPはオンデマンドについての成功体験に乏しいため、戦略を立案し、実行するのは容易ではないかもしれません。
ITmedia アプリケーションを専門とする立場から、クラウドによるアプリケーション提供形態である「Business ByDesign(BBD)」についてどう考えますか。
本好 今回調べたところ、BBDのインフラ面を含めた提供形態に幾つかの選択肢があります。一般に、いわゆるSaaS(サービスとしてのソフトウェア)型のアプリケーション提供の場合、マルチテナント型と分離テナント型に分かれます。さらに、アプリケーションの実行基盤の所在やアプリケーションのバージョン管理の方法、データ分離などの観点から細かく分類されます。
今回、BBDの新版「2.5」において、SAPはマルチテナントと分離テナントの同時提供や、パートナーによるホスティングを通じた提供などを始める可能性があります。その場合、実際にSAPがターゲットにしている中堅企業の顧客層に受け入れられるか、パートナーが賛同するかなどは課題になるでしょう。さらに、BBDが広く市場に受け入れられた場合、中長期的に大企業向けの既存製品と社内競合することも懸念されます。
ITmedia 今回は、SAPによるソーシャルアプリケーションへの注力が目立ちました。
本好 7月にリリースされるクラウドアプリケーション「Business ByDesign」の最新版である2.5はSileverlightをベースにしており、インタフェースがかなり変わっています。コラボレーションや情報共有、ブレーンストーミングなどの機能を含む「SAP StreamWork」も、ソーシャルアプリケーションのようなデザインに仕上がっています。
日系のERPベンダーは、ニッチな分野で進んでいるところはありますが、基本的にはSAPやOracleをベンチマークしています。SAPがこのように、企業向けアプリケーションをソーシャル化する動きを強めることで、日系のソフトウェアベンダーなどがそれに追随する可能性はあると思います。
今後、デジタルネイティブと呼ぶ世代がオフィスに増える中で、Facebookをはじめとしたソーシャルアプリケーションの使い勝手を取り入れる動きは、抑えつけても抑えられないかもしれません。
ITmedia ERPやSCM(サプライチェーンマネジメント)などの業務系アプリケーションにソーシャルアプリケーションのインタフェースが本当に必要でしょうか。
本好 すべてがソーシャル化するわけではないと考えます。生産管理などのトラディショナルな業務領域では、ホストで使っていた従来型のコマンドプロンプトや、ユーザーごとに最適化したインタフェースを使って情報をやりとりした方が良いケースもあります。
一方で、人材データベースのイメージで利用するタレントマネジメントの仕組みや、日々入力する勤怠管理のようなシステム、備品などを調達する業務を担うアプリケーションは、ソーシャル化に向いているかもしれません。ユーザーにそっぽを向かれないようなアプリケーションを考えていくことは重要です。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授