「節電でワーキングスタイルは変わる、この際新しい企業経営の構築を」その2生き残れない経営(2/2 ページ)

» 2011年08月08日 07時00分 公開
[増岡直二郎(nao IT研究所),ITmedia]
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 2、次に、ワークライフバランスの問題だ。節電対策の1つとして、在宅勤務が挙げられる。

 しかし、在宅勤務を含むテレワーク(情報通信機器を利用して時間・場所に制約されず勤務する形態)の普及率は、企業で12.1%といまだに低い(総務省「平成22年通信利用動向調査」平成23年5月)。まだ働き方として一般的でない。

 しかし、今テレワーク導入の必要性が高まっている。その1例が、仕事と生活の調和を図る一手段としてだ。議論は身近なところで通勤地獄などのストレス解消から始まり、働き蜂などは遠い昔の話、近年は人生を幅広く豊かに楽しむ人生観が主流、女性の社会進出で家事や育児もしやすい環境、高齢化で身内の介護も考慮する環境が求められるのは常識、そこに職住の関係を柔軟に考えられるテレワークの存在感が増す。

 なお、ワークライフバランス問題にはテレワーク以外に、男女共の育児やボランティア活動時間確保のためのフレックスタイム導入、休暇の長期取得など多くあり、これらを考慮した勤務体系確立が必要だ。

 3、さらに、少子高齢化に伴う労働力不足の問題だ。今後、主婦・高齢者・身障者らを有効活用するために多様な働き方が求められるが、テレワークが有効な方法の1つだ。在宅勤務のほかに、モバイル型や施設利用(サテライト)型など、柔軟な活用が必要だ。

 そのためには、テレワークに適した業務を選択すること、さらに業務の流れ・引継ぎ・責任分担などを明確にするなど、業務そのものをテレワークに対応できるように変えて行く必要がある。一方でテレワークの生産性が心配されるが、仕事への集中度はオフィス勤務時より自宅勤務時の方が高い。職場での口頭連絡もあって集中度だけが生産性ではないが、6時間以上の集中度持続は自宅で58.0%、オフィスで24.3%だ(「平成17年度在宅勤務実証実験」日本テレワーク協会)。

 さらに、これから少子高齢化で労働力不足が加速する中、業務従事時間で人事勤務評価をする組織から、アウトプットで評価をする組織へ脱皮が求められるなど、実質的な生産性や価値を生み出す組織へ転換していかなければならない。

 他に労働力不足解決の有効な方法として、外国人の活用がある。国の課題になるが、規制緩和・制度改革など外国人受け入れのための条件を今からきちんと整備しておかなければ、有効活用ができないだけでなく、深刻な問題を抱えることになる。

 4、地域格差を是正し地方の疲弊を救う手段として、サテライト型のテレワークは有効な方法の一つだ。過去サテライト型は費用対効果などの点で敬遠されたが、地方の公共施設や遊休施設の積極利用を考えると、初期投資や経費を節約できるうえに、地方の活性化に寄与できる。地方の活性化や交通過密・公害などの対策として、アメリカでは分散型オフィスが行政主導で行われているが、日本も同様に財政面などの行政支援が必要だ。

 なお、今回の大震災を契機に企業や個人の公共奉仕の姿勢が随所に活発に見られたが、これからますます社会からその要求も高まり、必要性も強くなろう。特にワーキングスタイルが工夫される中、創られた時間や空いた時間で、企業人が一市民として地域の教育・福祉・環境などのボランティアに積極参加するようになり、地域活性化に寄与する。

 企業は、公共性・社会的責任などの観点からその辺の自覚を欠かすことは許されず、深くコミットメントして行かなければならない。

 5、悪しき労働慣行の是正が、節電を契機にしたワーキングスタイルの多様化や新しい経営モデルの構築により進行する可能性がある。その可能性を実現するのは経営者の責任だ。今まで検討したように、労働生産性や付加価値の向上のために組織や業務が抜本的に改革され、テレワークなど多様なワーキングスタイルが導入され、アウトプットで人事評価されることが主流になり、さらに企業や個人の公共性や社会的責任が増すにつれて、(1)長時間労働やサービス残業は排除され、(2)取りにくかった有給休暇も取りやすくなり、(3)定性的人事評価/年功序列/終身雇用のサイクルで成り立った日本的経営が否定され、(4)それに伴って多くの人にチャンスが出てきて、女性や非正規社員が軽視されて男子正社員が偏重されてきた風潮が無意味になってくる。

 「節電」によるワーキングスタイルを考えるとき、そこで終わらないで、積年の問題解決を念頭に、新しい企業経営スタイルを構築することを視野に入れて戦略的に取り組まなければ、企業経営は限界にぶち当たり、今後生き残ることも勝ち抜くことも難しくなる。

著者プロフィール

増岡直二郎(ますおか なおじろう)

日立製作所、八木アンテナ、八木システムエンジニアリングを経て現在、「nao IT研究所」代表。その間経営、事業企画、製造、情報システム、営業統括、保守などの部門を経験し、IT導入にも直接かかわってきた。執筆・講演・大学非常勤講師・企業指導などで活躍中。著書に「IT導入は企業を危うくする」(洋泉社)、「迫りくる受難時代を勝ち抜くSEの条件」(洋泉社)。



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