「節電でワーキングスタイルは変わる、この際新しい企業経営の構築を」その2生き残れない経営(1/2 ページ)

節電対策を好機ととらえ労働にかかわる問題を解決することで、新しい経営モデルが生まれる。労働生産性、労働力不足、働く場所や時間など解決できることはまだまだある。

» 2011年08月08日 07時00分 公開
[増岡直二郎(nao IT研究所),ITmedia]

 15%削減罰則付き電力使用制限令が7月1日政府によって発動され、さらに7月20日西日本5電力会社へも今夏の節電要求が出され、企業は残業制限・サマータイム導入・休日シフト・在宅勤務拡大などワーキングスタイルの見直しに動く。

 しかし企業はこの際「節電」対策だけに捉われず、これを好機と考えて積年の労働に関わる問題をどのように解決するかを、新しい経営モデルの構築を視野に入れてさらに検討しておく必要がある。それを先取りして実行できることが、今後の優良企業の条件となる。

 前回は、節電を契機に考えられるマルチなワーキングスタイルについて検討した。一方で、労働に関わる問題を解決するという視点からアプローチすると、また別のアイディアが出てくる。これが、今回のテーマだ。

 1、まず、労働生産性の問題だ。日本の労働生産性は低い。2009年で755万円(就業者1人当たり名目付加価値、購買力平価換算)、OECD加盟33カ国中22位、主要先進7カ国で最下位、米国比66.7%。製造業はOECD6位、先進国では米国に次ぐ2位で米国比70.6%だが、サービス産業での立ち遅れが全体を下げている。米国比で、金融仲介87.8%、郵便通信73.2%などの一部を除いて、飲食宿泊37.85、卸小売42.4%、運輸48.4%、ビジネスサービス50.8%は大きく下回る(労働生産性の国際比較2010年版 日本生産性本部)。

 さて、ここでいくつか分析を要する点がある。

 (1)まず、1人当たりの労働生産性を議論する場合、失業率を考慮しないと、失業率の低い日本は不利で公平でないという意見がある。しかし逆に、日本の場合は残業などの労働時間が多く(注1)、サービス残業(注2)も合わせて考慮すると、表面に出た数値よりもっと生産性が低いことになる(この考え方は、日本生産性本部へ確認済み)。

 (注1:2010年9月男性正社員の所定外労働平均時間は37.0時間、45時間以上が22.0%、80時間以上が9.1%占める。2009年の1人当たり平均年間総実労働時間は日本100としたとき、米103、英96、仏91、独81。注2:同時期の所定外労働時間で残業手当支払い対象であるのに申告しなかった者の割合43.9%、所定外労働時間に占める申告しなかった時間の割合51.1%。出典は連合総研「第20回勤労者短観」2010.10. 及び「OECD Employment Outlook 2010」)

 このことから、節電を契機にただ残業を削減し、その分の生産性を議論しても生産性の国際比較に影響はない。そういう小手先の策を講ずるのでなく、業務そのものを抜本改革して効率を上げないと国際的に太刀打ちできないということを認識すべきだ。

 (2)次に、大きく立ち遅れているサービス産業の対策だ。この場合も、残業削減のための作業効率向上という視野の狭い取り組みではだめだ。この際、抜本策を講じるべきだ。

 日本のサービス産業のきめ細かな心の行き届いたサービスは世界的に評価されているが、人手と時間をかけた過剰品質・サービスは、生産性を押し下げる要因の1つだ。そろそろ見直すべきだ。デパートでよく見かける客の数を上回る店員数が、それを如実に物語る。旅館での布団の上げ下げは客に任せていいのではないか。事ほど左様に、10年1日のごとく固執する旧来のやり方を見直し、労働時間を減らす工夫をすべきだ。

 IT利用をもっと図ることは、その方策の1つだ。インターネット利用率は、産業別に見たとき製造業も運輸・卸小売・サービス業なども大差がない。しかし、ITの内容別実施状況をみると、産業間で差が出ている。電子タグの導入率が技術や価格の問題もあるが全体的に低く(全産業で6.5%)、ICカードやネットワーク機能付加機器導入率は運輸・卸小売・サービス業で低い(20%前後、製造業は約28%)。電子商取引導入率は卸小売業が全産業で最も高く59.4%だが、運輸業は34.7%で低い(総務省「平成23年通信利用動向調査」)。サービス産業には、まだまだIT利用の余地は大きい。

 労働生産性の分母を下げる策ばかり強調しているようだが、一方規制緩和や制度改革で需要喚起、新規事業進出、起業機会拡大などを促し、分子を拡大する策も必要だ。

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