徹底的なリアリティで知られるこれまでの作品とは対照的に、どこかおとぎ話を意識したような、やわらかい語り口で書かれている。バラエティに富んだ作品の中でも異彩を放つこの作品はどのような背景と土壌を持って生まれてきたのか?
今回は、現在ベストセラーとなっている『ビブリア古書堂の事件手帖』シリーズを執筆している三上延さんです。
ホラーからファンタジーまで、幅広い作風で活躍されてきた三上延さんですが、今作は“ビブリオ・ミステリ”。古書店を舞台に、個性豊かな登場人物と人々の想いが詰まった古書たちが物語を織り成します。
三上さん自身も古書店でアルバイト経験があるそうで、そうした土壌の上に執筆されています。
――『ビブリア古書堂の事件手帖』シリーズは古書店を舞台に物語が展開していきます。三上さんご自身もよく古書店に足を運ばれると第1巻の「あとがき」で書かれていらっしゃいましたが、まずは古書店と三上さんのつながりについてお話いただけますか?
三上さん(以下敬称略):「デビュー前に3年間ほど古書店でアルバイトをしておりまして、本格的なつながりとなるとそこですかね」
――それ以前、学生時代のときも古書店にはよく行かれていたのですか?
三上:「そうですね、よく行きました。大学の帰りに神田神保町に寄ってお店を覗いたりしていましたね。ただ、その頃はあまり古書の価値は分からなかったですし、お金もなかったので高い本は買っていませんでした」
――古書店の魅力はどのようなところにあると思いますか?
三上 「僕の口から説明するのは少しおこがましい部分もあるのですが、本の魅力は書かれている情報と、装丁を含む本そのものの魅力、両方あると思うんですね。古書店では、今はもう絶版となっている、骨董品のような本に出会って触れられることが魅力の1つだと思いますね」
――ほかに例えば古書店で購入した本に線がひいてあって、前の持ち主がどんな風にして読んだのか分かったり、そういった楽しみもありますよね。
三上:「ええ、前の持ち主が購入した日付が書いてあったりしますし、面白いところに線が引いてあったり、メモが書かれていたりしますよね。『この訳は間違えている』とか(笑)」
――この『ビブリア古書堂の事件手帖』は古書店を舞台にしたミステリ小説となっていますが、この物語の着想をどのように得たのでしょうか?
三上:「もともと古書店でのアルバイト経験があったので、いずれ古書店を題材にして小説を書いてみたいということは頭の中にありましたね。そして今回の出版のお話をいただいて、いくつかあったプロットの中からこの話に決まったというところです」
――現在、電子書籍がクローズアップされていますが、私の中で古書の立ち位置はどのようになっていくのかということが1つ引っかかっていた部分でした。そうした中で、本作が出版され、累計72万部を超えるヒットとなって多くの方に読まれているという状況を見ると、物質的な「本」に対して人々が愛着を持っているのではないか、だから古書もなくなることはないのではないかと感じる部分がありました。
三上:「僕自身は電子書籍に対して特に反対の立場というわけではないのですが、先ほどもお話した通り、本には書かれている情報と、本そのものの価値、その両方が魅力だと思うんですね。電子書籍の場合、情報という側面だけで見れば悪い形ではないのですが、本ってやっぱり手元に持っておきたいという欲求があるじゃないですか。また、本に囲まれるのが好きで、本屋に行くという人もいますし、実際に本というものがあることで安心する部分はあると思いますね」
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