先進国中心の10億人のゲームの覇者である日本企業は、1990年代の中盤以降、コスト競争に勝つために安い労働力を求めて海外進出した。優れた技術力とコストを抑えた製品、これで勝てるはずだったが市場からはさらに低価格で付加価値の高い製品を求められ、韓国、台湾、そして中国のライバル企業に周囲を固められ、身動きが取れなくなった。この時、はっきりと新しいゲームが始まっていたのだ。30億人のゲームとは、単純に「いままでのやり方でもっと儲かるゲーム」ではなかった。
田中氏の話で驚くのは、高い付加価値を残したままで安く製造するための設計変更が実現するということだ。設計、開発は日本という基本線は譲れない製造業企業はまだまだ多い。しかし新しいゲームではそうした常識も見直していく必要がある。日本の自動車メーカ、日産やホンダの現地設計・現地ブランドの低価格車の例や、東芝の医療機器の例からも、設計、開発から現地化していく動きは今後も加速化していくだろう。田中氏は、こうした現地技術者の処遇についても考え方を変える必要があると話す。
「自社の処遇水準では高い評価だ、というのでは通用しない。優秀な人材は、現地の外資系企業も含めた市場でベストな水準で報酬を出さないとすぐに転職してしまう」(田中氏)
そして田中氏は、今日本の製造業に必要なのは、腰をすえて世界の各市場で現地化していくことではないかと強調する。
「中国では、日本企業と韓国企業のブランドを混同している人がかなりいる。ブランド戦略も中国市場では今後ますます重要になってきた。それを成功させるためにも、現地のニーズに合わせた、リーズナブルで付加価値の高いヒット商品が必要だ。設計、開発のフェーズからの現地化はそのための有効な方法といえる。しかし、いきなり成果を出すのは難しい。腰をすえて技術、マーケティングを始めとする経営の現地化を進め、海外子会社を進化させていくことが大切だ」(田中氏)
中国はもはや労働力の安さという意味では、他の新興国と比べて見劣りする状況になった。労働力の安さだけを追い求めるなら、中国はもはや有望ではない。しかし、田中氏はタイ、ベトナム、インド以外にトルコ、ブラジル、メキシコといった国々に新しい安価な労働力を求め、生産拠点を置いていくだけの戦術について「兵站線が伸びきった状態となり、災害などの環境変化によってサプライチェーンが機能しなくなる恐れがある」と指摘する。
製造業が一番の理想とするのは、自社ブランドの製品が世界中の市場で買われ、利益を出していくこと。新しいゲームの勝者となるためにも、成長を続ける新興国でのさらなる経営の現地化はこれからの日本企業にとって避けては通れない重要なテーマとなるに違いない。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授