設計、開発の現地化にまで踏み込む新興国戦略(1/2 ページ)

新たな局面を迎える新興国市場、求められる事業戦略の転換──中国市場を中心に

» 2012年04月20日 08時00分 公開
[大西高弘(ノーバジェット),ITmedia]

 早稲田大学IT戦略研究所主催の第37回インタラクティブミーティング(ITmedia エグゼクティブ協賛)が早稲田大学で開催された。「不確実性を深める世界経済と日本企業の進むべき道」が今回のテーマ。東芝 顧問の田中孝明氏が「新たな局面を迎える新興国市場、求められる事業戦略の転換──中国市場を中心に」と題する講演を行った。

10億人から30億人のゲームへ

東芝 顧問 田中孝明氏

 東芝 顧問の田中孝明氏は1975年に東芝に入社。東芝アメリカ社副社長、人事教育部国際企画担当グループ長、海外事業推進事業部長、執行役常務などを歴任、東芝(中国)の中国総代表も務めている。

 田中氏は現在の中国について「安定成長路線へと舵を切った。軍事費よりも更に高額の予算を国内の社会秩序維持のために割く方針を決めている。安定成長路線には、内陸部の2級、3級都市の成長を図りながら内需を拡大させることが欠かせない。物価を安定させ、製造業を高度化させ、そしてサービス産業を誘致していく流れは今後ますます大きくなるはず」と語る。

 こうした流れに乗って海外企業も敏感に反応している。例えば、重慶市は、パソコンメーカのHPを誘致しEMSメーカも集積させることで一大PC拠点を作り上げているという。中国の経済成長の果実を自社の利益として結びつけたいならば、このような政策を見越した動きが必要なるというわけだ。

 「あなたたち日本人は、これまで先進国チームの一員として10億人のゲームをしてきた。しかしこれからは30億人のゲームだ」

 田中氏は最近耳にした中国政府要人のこの言葉が印象に残っているという。つまり今までとは違うゲームが始まったのですよ、ということなのだろう。

 新しいゲームは中国を始めとする新興国市場ではすでに始まっており、残念ながら日本企業の苦戦が伝えられている。進出先の市場で製品が売れない、あるいは、しばらくは好調でもすぐに現地のライバル企業がシェアを奪っていってしまうという類の話だ。

瞠目すべき「物まねの能力」

 こうした状況の中で田中氏は多くの日本の、特に製造業企業の悩みを次のように表現する。

 「新興国でヴォリュームゾーンを戦うには低価格戦略は維持しなければならないが、品質を落とすわけにはいかない。そんなことは本国の技術者が許さない。製造業以外の方はなかなか理解していただけないと思うが、設計を変える、仕様を変えるというのは製造業にとって大変なことなのだ」(田中氏)

 結局、製造業が新興国で成功するためのあるべき姿はどんなものなのか。田中氏は、「品質を落とすことなく、現地調達できる汎用部品を利用して作れるように設計を現地で現地スタッフを中心に行うこと」だと説明する。

 「日本の設計図をベースにコア部品は日本から輸入して、現地の安い労働力を活用するだけでは、コストは10%ぐらいしか落とせない。これではすぐに現地企業に負けてしまう。値下げ圧力に合わせていくことになり、販売コストが跳ね上がってしまう。そこで現地のニーズを吸い上げて日本で設計を変更する。これでも30%ぐらいしか落とせず競争力が強化できたとはいえない。そこで資源を投入し、日本の技術者を現地に呼び、現地スタッフとクロスファンクショナルなプロジェクトを2〜3年実行しながら設計を見直して、仕様を変え、そして現地調達できる汎用部品で製造すると40%ぐらい落ちる」(田中氏)

 この様な方法で東芝は中国で設計したCTスキャナー製品を世界戦略モデルとして開発した。この製品は価格面ではライバル製品より安く、しかも被曝量を70%以上低減させる先端技術も搭載しているという。このように価格競争力と高い付加価値のある製品を開発することが成功の条件になる。 東芝はメディカル製品のソフト開発拠点を2008年に大連に集約させた。もちろん設計開発機能もこの拠点内にある。

 田中氏は中国人設計者の「物まねの能力」には目をみはるものがあるという。 「彼らは、日本製品を徹底的に分析する。その上で高い付加価値を現地の安い汎用製品で実現できる設計に再トライする。こうした物まね能力は日本の技術者も批判するだけでなく学ばなければいけない」(田中氏)

 これはおそらく、これからの成長市場での30億人のゲームでは不可欠な能力なのだろう。

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