ITの世界で活躍する女性を育てよう WINCの活動

ベンダー企業やSI企業、ユーザー企業のIT部門などで働く女性が集まり、勉強会や講演会を行うコミュニティーを紹介する。

» 2012年05月22日 08時00分 公開
[伏見学,ITmedia]

 IT業界あるいは企業のIT部門で働く女性のコミュニティー、「WINC」をご存じだろうか。

 WINCとは、“Working style Innovation with Cloud computing”の略称で、2011年2月に設立された。当初は4社でスタートし、現在は13社が参加している。その顔ぶれは、オージス総研、新日鉄ソリューションズ、JFEシステムズ、JALインフォテック、大和総研、大和総研ビジネス・イノベーション、日本航空、日本電気、日本ヒューレットパッカード(日本HP)、日本マイクロソフト、パナソニック電工インフォメーションシステムズ、富士通、レッドハットと多彩だ(50音順)。1社あたり約5人(年代はさまざま)が参加しており、全体で60人前後の大規模な活動となっている。

交流会でのワークショップの様子 交流会でのワークショップの様子

 WINCの目的は、大きく2つある。1つは、IT分野の女性活躍推進に関する参加者の意識を高めるとともに、企業間の連携を目指すこと。もう1つは、女性ならではの視点から、クラウドを活用したワークスタイルのあり方を世の中に提案していくことである。WINCの事務局長を務める大和総研 業務企画本部 システム研修部長の英由喜江氏は「まずは、育児や休職からの職場復帰など、女性が抱える悩みや課題を共有し、働く意識を向上させることが重要だ」と話す。

 また、クラウドコンピューティングなどの最新のIT技術を活用することで、女性が働く上で抱える課題の根本的な解決につながるような、ワーキングスタイルの提供が可能になるという思いがある。実は、WINCの母体は、大和総研らが中心となるクラウド技術推進グループ「アライアンスクラウド推進ソサエティ」であり、そのことからもクラウドという名称がコミュニティーに込められているのだ。

 なお、アライアンスクラウド推進ソサエティでは、基幹系システムでも使えるクラウド環境の標準化を進める活動を通じて、特定ベンダーに依存しない多種多様なIT機器やソフトウェアの組み合わせ検証を行い、可用性や信頼性などの定められた要件を満たすシステム構成を標準モデルとして認定している。

 日本においては、メーカやSI企業が各々クラウドサービスを提供しており、ITの標準化については遅々として進まない状況があり、これに危機感を持った女性エンジニアなども多い。こうした共通意識を持ったメーカやSI企業に所属する人たちが本音でコミュニケーションを図り、各社の取り組みを意見交換する場としても、WINCは大きな期待を集めている。

講演やディスカッションでキャリアを考える

 では、WINCは具体的にどのような活動を行っているのだろうか。定期的に、交流会を開き、キャリアプラン設計やテレワーク、さらにはITの最新動向など、幅広いテーマの講演を行っている。この交流会は参加企業が持ち回りで場所確保からコンテンツの企画、運営までを手掛ける。

 これまでの内容として、第1回は、女性の活躍を支援する各社の取り組みを紹介した(幹事企業:大和総研)。第2回は、日常の仕事で心掛けていることや、新しいワークスタイル実現のための工夫などを議論した(幹事企業:パナソニック電工インフォメーションシステムズ)。第3回は、クラウドコンピューティングや在宅勤務の紹介(幹事企業:新日鉄ソリューションズ)、第4回では、スーパーコンピュータ「京」のプロジェクト担当者による講演が行われた(幹事企業:富士通)。

 2012年3月に開かれた第5回交流会(幹事企業:日本HP)では、「あなた自身の歩みをキャリアとして記すために」をテーマに、講演やワークショップが行われた。

 最初のセッションでは、社員の多様な働き方をサポートするために日本HPが独自に考案した「フレックスワークプレイス(FWP)制度」が紹介された。FWPとは、「月のうち数日を自宅などで就業する」というもので、日本HPが2007年11月から全社員を対象に実施している。日本HPでは1977年にフレックスタイム制度を導入して以降、社会貢献休暇やフリーアドレス、在宅勤務制度など、長年にわたって社員が仕事と生活のバランスを保ち、いきいきと働き続けられる環境づくりに取り組んできた。FWPもその一環として、社内外から注目されている。

 そのほか、日本HP ボリュームオペレーション本部長の前田通子氏が「私のキャリアの軌跡」と題した講演で、さまざまな会社で経験した仕事の苦境をいかに乗り越えてきたかを振り返り、「文句は言わず、逃げずに、与えられた仕事はすべてこなすこと。そのために、常に勉強する努力を怠らないように」と参加者に向けてエールを送った。

 また、日本HP 執行役員 人事統括部長の有賀誠氏が「キャリアプラン」をテーマにした講演を行い、ワークライフバランスに対する考え方を示した。ワークライフバランスとは、ワーク(仕事)とライフ(生活)のバランスをいかに保っていくかという考え方だが、有賀氏によると、あくまでも人生の中に仕事があるのだという。そのことから、ワークライフバランスではなく、“ワークライフインテグレーション”を考えるべきだとした。

 さらに、有賀氏はIT業界で働く上で、1つの技術スキルにだけしがみついても、技術は陳腐化してしまうリスクがあると警鐘を鳴らし、「英語ができるエンジニアや技術の分かる営業など、幅広いスキルを持って働くことが肝要なのだ」と強調した。


 これまでWINCの活動では講演やディスカッションが中心だったが、新たな取り組みとして今月、テーマと参加者を絞って、分科会を実施した。初回のテーマは「IT人材育成」で、IT企業各社の社員研修などを紹介するとともに、課題を共有し、より深いディスカッションを行った。

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