冒頭のように日本人はやたらと謙遜する癖があるので、上記の例でもこんな風に紹介することだってあり得たはずだ。
「今後、山田が中心となって進めていきます。何分、経験も浅いし、いろいろご迷惑をおかけするかもしれませんが、長い目で見てやってください。よろしくお願いします」
そう言われれば私も「まだまだ修業中の身なのだなあ」と理解し、彼女との接し方を少しは変えていたかもしれない。例えば、難しい話になったらマネジャーに持ちかけるといった判断をしてしまった可能性も否めない。潜在意識として「大丈夫かな」と小さく不安に感じないとも限らない。
しかし「優秀だからスカウトしてきた」と言われれば、そういうイメージで接するので、最初から何の不安もなく仕事を進められた。
人間、第一印象は大事で、最初に「スゴイ人」「素晴らしい人」と思えば、次に会うときもその第一印象を強化する情報を選択していく傾向がある。資料の出来が素晴らしければ、「やはり優秀と言われただけのことはある」と思うわけだ。仮に納期に1日くらい遅れても、「優秀な彼女が遅れるのだから、よほどのことがあったに違いない」などと好意的に解釈もする。
一方「未熟者ですが」などと紹介されると、少し納期に遅れたくらいでも「未熟と言われるのはこういう点にも現れるのだな」と評価してしまうこともある。だから「よい点を強調する」「褒めて紹介する」のは、本人のその後の仕事にも好影響を及ぼすことなのである。
「優秀」「素晴らしい」と紹介するのは、紹介された当人にも有効だ。「未熟者」と紹介されれば、多少は甘えの気持ちも生まれるかもしれない。でも「素晴らしい」と紹介されたら、紹介してくれた上司や先輩の顔をつぶさないためにも、相手の期待を裏切らないためにも、努力するだろう。
いや、そもそも褒められたら誰だってうれしい。プレッシャーを感じはするだろうけれど、それでも悪い気はしない。だから、期待に応えようとうんと頑張ることになるのだ。
こんな例もある。「入社して以来、1番やる気が出た出来事は何ですか?」と若手社員に問いかけたときのことだ。
「配属直後のころ初めて客先に連れて行ってもらったら、上司がボクを“うちの部署のエースです”と言ったので、すごくびっくりしました。かなり焦ったのですが、頑張らなくちゃと思いました。もう4年目ですけれど、今でもその言葉、胸に大事にしているんです」
配属直後の新入社員を客先に連れて行くなど、ほとんどの場合は「OJTの一環」である。まだ実力のほども分からないわけだから、「新人です。ご迷惑をおかけしないようこれから鍛えていきますので、よろしくお願いします」とでも言いそうな状況だ。しかし上司は、あえて彼を「若手のエース」と言った。
「ふつつかものですが」「未熟者ですけど」「まだまだ修業中の身ですが」というのが本当のところかもしれない。しかしそう紹介されれば、紹介された顧客は不安になるし、若手も「甘え」の意識を持ってしまう可能性がある。上司から見れば未熟なことがたくさんあったとしても、そこを「エース」「優秀」「ホープ」と言うのである。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授