連載
» 2012年08月29日 08時00分 公開

U理論が導くイノベーションへの道:【新連載】「出現する未来」からイノベーションを生み出すには (2/2)

[中土井 僚(オーセンティックワークス),ITmedia]
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「過去からの学習」と「出現する未来からの学習」

 「U理論」でオットー博士は次のような問題提起をしています。

 ガンジーやマザーテレサのような偉大なリーダーが「何をしたか(結果)」に関しては既に数多くの著作の中に記されている。次に「どのようにやったか(プロセス)」についても過去、数十年に渡って研究が進められてきている。しかし、世界中がガンジーやマザーテレサのようなリーダーで溢れることがないのはなぜなのか。それは、彼らの内面で何が起こっていたのかがブラックボックスになっているからではないか。

 オットー博士はそのブラックボックスとなっている「内面の状況」がイノベーションの盲点であり、レバレッジ(テコの支点)であると指摘しています。

結果に影響を与える「目に見えない」領域

 では、イノベーションが起こる時、人や集団の「内面の状況」では一体何が起きているのでしょうか。オットー博士は、それを「出現する未来からの学習」という言葉で表現しています。われわれは普段、PDCAサイクルに代表される「計画―行動―観察―振り返り」を繰り返し、過去に起こったことから学ぶプロセスに慣れ親しんでいます。これを「U理論」では、「過去からの学習」と呼んでいます。

 「過去からの学習」は、因果関係が比較的シンプルで先がある程度予測可能な状況において効果を発揮します。例えば、現在のようにニーズが多様化しておらず、効率性が競争優位の鍵であった大量消費大量生産の時代においては非常に効果的です。また既にビジネスモデルが完成している中で、改善を積み重ねることによってより高いパフォーマンスを達成する際にも効果的でしょう。

 しかし、「環境の持続可能性」「少子高齢化」「新興国の台頭」などに代表されるような、過去に経験したことがない上に、その問題の全貌すら明らかになっておらず、更には主要なステイクホルダーが誰なのかも分からない複雑な問題にわれわれは直面しています。

 例えば、原発の問題においては誰一人として答えを持っていないどころか、専門家ですらそれぞれ全く異なる主張をしています。また、原発建設するという数十年前に行われた意思決定の結果が、今後数十年、数百年にも渡って国や世界に影響を及ぼしていくという時間的にも空間的にも極めて広い因果関係が生まれています。アインシュタインの「問題を作り出したのと同じレベルの思考では、その問題を解決することができない」という言葉が示すように、このような複雑な問題を「過去からの学習」だけで解決していくのには限界があるというのが、オットー博士が主張しているポイントです。

 それに対して、「問題を作り出した思考レベル」を超えて行くための新たな学習の姿として同博士が提唱しているのが、「今、この瞬間」に立ち現われようとしている未来を感じ取って、行動を創り出していく「出現する未来からの学習」です。

 具体的な内容については2回目以降で詳細に伝えますが、今全体で起きていることを「ただ、ひたすら観察し」、「一歩下がって内なる叡智の出現を受け入れ」、その叡智に従って「即興的に行動する」というプロセスを繰り返すことによって、まるで今起きていることとダンスをするように解決策を生み出していきます。

 ビジネスシーンではあまり馴染みのない考え方なので今一つピンと来ないかもしれませんが、ここではひとまず画家や音楽家などアーティストが、インスピレーショナルなアイデアを思いついては、それを具現化していくプロセスに近いものだと捉えてもらえればと思います。

“過去”からの学習と“出現する未来”からの学習

 やっとここで冒頭のスティーブ・ジョブズ氏の言葉に戻ります。あの演説で彼が語ろうとしたことは正にこの「出現する未来からの学習」のことなのではないかと、わたしは感じています。もちろん、「U理論」を学べばスティーブ・ジョブズ氏になれると短絡的に結論付けるつもりはありません。しかし、彼のように自らの心の声に従いながら変化や創造を起こしていくという生き方に挑戦していこうとする人にとって、その旅路を歩む上での心強いコンパスとして「U理論」が役立つとわたしは確信しています。

 次回以降は、この「未来からの学習」を行い、イノベーションを実現していくための各プロセス(コンパス)を詳しく紹介していきます。

著者プロフィール

中土井 僚

オーセンティックワークス株式会社 代表取締役。

社団法人プレゼンシングインスティテュートコミュニティジャパン理事。書籍「U理論」の翻訳者であり、日本での第一人者でもある。「関係性から未来は生まれる」をテーマに、関係性危機を機会として集団内省を促し、組織の進化と事業転換を支援する事業を行っている。アンダーセンコンサルティング(現:アクセンチュア株式会社)他2社を通じてビジネスプロセスリエンジニアリング、組織変革、人材開発領域におけるコンサルティング事業に携わり2005年に独立。約10年に渡り3000時間以上のパーソナル・ライフ・コーチ、ワークショップリーダーとしての活動を行うとともに、一部上場企業を中心にU理論をベースにしたエグゼクティブ・コーチング、組織変革実績を持つ。


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