日本の容器業界の盟主である東洋製罐が、本格的に海外展開に取り組み始めたのは2006年と決して早くはない。同社は、長期的には海外売上高比率を30%にまで高める計画を立てており、昨年度は9%にまで達した。今後の展開に向けては、5年から10年で海外のM&Aに1000億円を投じる方針も発表している。汎用品である容器ビジネスは、今後内需の成長は見込めないと言われている。そのような状況下で、今後の成長を懸けた東洋製罐の積極的な海外展開の取り組みは成功するであろうか?
東洋製罐は、鉄、アルミをはじめ、PET、プラスチック、機能性フィルム、紙、ガラスなど、様々な素材で包装容器を製造する日本を代表する企業であり、飲料、食品、日用品、化学薬品などのメーカーには不可欠の存在である。しかし、日本マーケットが成熟するにつれ、厳しい経営状況に置かれてきた。
そのような状況下で、企業規模からすると遅ればせながら海外展開に取り組み始めている。容器業界は、国内は成熟ビジネスだが、新興国ではまだまだ成長余地がある。例えば、2010年の鉄製とアルミニウム製の缶市場は、日本市場は250億個で頭打ちだが、世界市場は2500億個の規模があり、今後年100億個程度伸びると予想されている。
しかし、このような成長市場では、当然のことながら現地で安価な製品を作る企業が出現してきており、東洋製罐にとって容易にビジネスを作ることができる市場というわけでは全くない。このような環境下で、東洋製罐はどのように海外展開に取り組んでいるのであろうか?
東洋製罐にとって、2000年代の国内ビジネスは非常に厳しいものであった。顧客から価格低減を要求されるばかりでなく、飲料メーカーは原価低減を図るために自社で容器製造から充填までを行うインプラント化を推し進めた。このような市場の変化に対し、東洋製罐はビジネスモデルの変革を模索することで事業の立て直しを図ってきた。
提案型のビジネスを志向すると同時に、単に製品としての容器を売るのではなく、原材料、加工原材料、容器製造機、充填機なども必要に応じて販売すると同時に、顧客への導入に向けたコンサルティングを提供する、更には顧客工場内にオンサイトで容器製造から充填までのラインを提供するといった、バリューチェーン全体で付加価値を提供するビジネスモデルへの変革である。
日本の厳しい環境下で、要求レベルの高い顧客と培ってきたこの変革が、実は海外展開で生きている。日本市場の高い要求レベルで顧客と切磋琢磨した結果、海外の低価格メーカーに対抗し得るビジネスモデルもこの過程で構想することができたのである。以前、欧米で起こったことが遅れて日本で起こる、それを日本市場に適した形で展開することで成功した、いわゆる「タイムマシン経営」が数多く見られた。
東洋製罐の取り組みは、この逆張りと言えよう。日本で起こったことが、今後新興国で起こる。それも、コスト面では日本よりも厳しく、スピードも速い。それを見越して海外展開を図る「逆タイムマシン経営」を同社は模索しているのである。
このような戦略は、理屈としては理解できるが、実際に成功に導くのは容易ではない。東洋製罐の取り組みを見ていると、この戦略を成功させるための主なポイントは、以下の3点に集約されるように思われる。1つ目のポイントが技術力である。
「技術立社」を標榜する同社は、顧客の要求レベルが非常に厳しい日本で培ってきた高い技術力がある。例えば、常温での無菌充填を可能とするアセプティック充填の技術、水の使用量とCO2の発生を大幅に削減するTULC(Toyo Ultimate Can)といった缶製造の技術などである。容器はほとんどが汎用品となっているが、高品質で環境負荷の低い製品をコストレス・工数レスで造る技術は、そう簡単に新興国企業が追いつけるものではない。
同社は、この技術を最大限に活用して、最終製品を製造、販売するばかりでなく、顧客や組む相手先に応じてその技術やノウハウ、更には原材料や製造装置まで臨機応変に提供するビジネスを展開しようとしている。(独自技術TULCの原材料である樹脂被覆型のアルミニウム材を生産する工場をタイに建設し、原価低減と同時にアルミニウム材を同業他社に販売する取り組みも既に開始している。)
これまでに培ってきた高い技術力を活用し、容器製造から顧客が手にする最終商品を市場に届けるまでのバリューチェーン全体で付加価値を発揮できるビジネスを創造することを模索しているのである。
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明治学院大学 経済学部准教授