もちろん、顧客深耕を実践していくためには、それに適した経営戦略が必要だ。新たな経営戦略を立案し実施していくためには、適切な手法や指標を用いて分析・検討することが欠かせない。上村氏は、ワークショップや講座などではSWOT分析の改良版を用いているという。SWOT分析とは自社の「Strengths」(強み)「Weakness」(弱み)および「Opportunity」(機会)「Threats」(脅威)を列挙し、S/WとO/Tの組み合わせから、強みを生かすプラン、脅威や弱みを克服するプランを見出し、アクションプランやCSF(Critical Success Factor:重要成功要因)を導き出していく手法。
「改良したのは、SWOTに“こだわり・独自性”を加えた点。これを“K”とし、O/Tとの組み合わせを通じて“こだわり・独自性から強みを創るプラン”に繋げる。ここが重要なポイント。もともとのSWOTでも改良型SWOTでも、実際にやってみると最終的なアクションプランを作り出すまでは悩むことが多く、ワークショップに参加している方々も時間をかけて熟慮を重ねてようやく出してくる。難しい課題ではあるが、ぜひ挑戦してほしい」(上村氏)
そして、各種経営指標における数値の目安も、20世紀型と21世紀型では大きく異なってくる。氏はその中でも主立ったものを表で示し、こう解説した。
「例えば売上伸張率は、20世紀型の成長市場では“5年で2倍(年15%以上)”といった数字が目安となっていた。しかし今は、年3%でさえ、それを何年も続けられるのは凄いこととされる。非成長型である21世紀の市場では、年率3〜6%くらいが目安になるだろう。また、損益分岐点比率も、かつては単純に“低いほど良い”とされてきたが、21世紀では事業を空洞化させないよう、すなわち投資などもきちんと続けられるように、低すぎない範囲で適度なバランスを保つのが望ましい。こうした指標を元に、自社が21世紀型のビジネスになっているかを自己診断してほしい」(上村氏)
「2011年3月11日の震災以降、日本の消費動向は大きく変化した。ポイントとなるのは“省エネ意識”“安心・安全へのシフト”“絆と地縁”、そして“贅選”の4つだ。贅選というのは“良いものを長く使う”といった感覚で、使い捨て消費への罪悪感から“一生モノ”を求める傾向が出て来た。例えばスペインの高級ブランド“ロエベ”は震災後に販売好調となっており、ルイヴィトンやグッチが売上を落としたのとは対照的。いずれも高級ブランドという点では共通だが、ロエベのデザインはベーシックな、流行に左右されにくく長く使えるスタイル、かつ品質は最高といわれており、それが消費者に評価されたものと考えられる。こうした傾向は、おそらく10年以上は続くだろう」(上村氏)
20世紀型の大量生産大量消費に対する反動が、震災や原発事故を受けて強く表れたともいえるだろう。そして物質至上主義から精神世界への転換、自然への回帰、サステナビリティ、エシカル(倫理的あるいは道徳的な)消費行動を志す、といった方向性が強まった。
企業活動に対しても、CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)はもちろん、さらに踏み込んでその企業が基盤を置いている工場・営業所などがある地域の経済活性化への貢献を目指す「CSV」(Creating Shared Value:共有価値の創出)などが期待されるようになってきた。
「また、ブータン王国が採用して世界的に注目を集めているGNH(Gross National Happiness:国民総幸福量)のような考え方を企業にも取り入れようとする動きもある。ブータンは貧しい国とはいえ医療と教育は全国民が無料で得られる。経済とは、突き詰めれば人間の幸福を目指していくもの。こういった方向性をよく考え、適切に対応していけば、この21世紀の中でも生き残っていく企業を、一社でも増やせるのではないか」(上村氏)
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授