マイクロソフトの日本法人を指揮する樋口社長が考える同社の強み、そして、企業リーダーとしての自身の強みとは何であろうか。
今年4月に社長在任期間がちょうど5年となる、日本マイクロソフトの樋口泰行社長。これまでの間に、日本法人の社名変更やオフィス移転、さらには組織のテコ入れなど、さまざまな改革に着手してきた。そこで培われた他社に負けない強さとは――。
社長としてのこれまでの取り組みと、今後の展望などについて聞いた。
――2012年を振り返り、どのような感想をお持ちでしょうか。
日本全体のトーンを見ると、昨年に限らずここ3年間は、民主党の政策で停滞したという感想を持っています。国内の購買意欲が冷え込み、景気がいつまで経っても回復しないという状態が続いていました。経済面だけでなく、外交面でも中国との関係悪化によるチャイナリスクが高まるなど、不安定な状況にありました。
その中で日本マイクロソフトの2012年を振り返ると、特にエンタープライズ向け製品が好調でした。コスト効率の良いオープンなITシステムに対する企業ニーズの高まりを受け、WindowsをプラットフォームにしてサーバもデータベースもMicrosoft製品を導入するという動きが見られたり、従来からマイクロソフトが得意とする情報系インフラ製品に「Lync」のような新たなコミュニケーション基盤が加わって、新しい働き方やワークスタイルを醸成したりしました。
また、PaaS(サービスとしてのプラットフォーム)、IaaS(サービスとしてのインフラストラクチャ)といったクラウドサービスのほか、Windows 8の登場でデバイスやタブレット関連の引き合いが強いです。経済全体が非常に低迷する中、マイクロソフトにとっては恵まれたシーズンでした。
年始に行われた経済界の賀詞交歓会では安倍晋三首相が「スピーディーに物事を決めて実行していく」と話されるなど、今後はこれまでよりもムードが良くなるなと感じています。
――政権交代によってどのようなことを期待しますか。
今までのように、コストダウンばかりの縮み志向では、企業のIT予算は削られる一方です。景気回復によって、企業が“攻めの経営”の姿勢になり、IT投資が増えていくことを期待します。
まだ新政権は動き始めたばかりですが、既に円安が進むなど、経済状況が改善されてきています。この1月〜3月期だけを見ても、株高、円安によって、企業の投資意欲や購買意欲が高まってくるだろうと考えています。ここで新政権がいかに新しい政策を決め、実行していくかによって、その後の状況も変わるでしょうが、少なくとも今までの状況よりは明るいと思います。
――そうした中で、今年の日本マイクロソフトの事業目標は?
これまでのビジネスのやり方に加えて、クラウド、デバイス、ソリューションという3本柱をもっと強化していきます。
ソリューションに関しては、Windowsをプラットフォームにして、CRM(顧客情報管理)やERP(統合業務パッケージ)といったアプリケーションの導入、エンタープライズサービスのようなシステム構築などを推進します。単にPCのソフトウェアを提供するだけではなく、基幹システムのソリューション分野も伸ばしていきます。
クラウドについては、昨今、BCP(事業継続計画)や経営アセットの切り出しなど、さまざまな場面で企業に浸透しています。とりわけ東日本大震災以降、BCP対策としての導入が顕著に表れています。Windows Serverのライセンスの売れ先を見ても、企業内での利用からデータセンターでの利用にシフトしています。
ただし、これから日本企業が競争力をつけていくためには、BCPだけではなく、いろいろな分野でクラウドを活用してイノベーションを起こし、創意工夫をしていかなければなりません。例えば、クラウドは、短期でビジネスを立ち上げるときや、急激なトラフィック需要によってシステムに大きな負荷がかかるときなどに有効です。クラウドの利点が生かせる分野が今後ますます広がっていくと見ています。
――年頭所感や記者会見などでも「日本を元気に」というフレーズを幾度と口にされています。具体的にどのような思いが込められているのでしょうか。
日本を元気にすることは、日本全体のアジェンダであり、優先順位も高いです。特に被災地の復興なくして、日本の復興はありません。そうした状況の中、自分たちの会社の利益だけのために行動するという思考は、もはや世の中に受け入れられないでしょう。われわれが日本でビジネス活動をさせていただくためには、その時々における日本の優先課題としっかり連携していかなければなりません。
震災後は、被災地でのさまざまな社会貢献や支援活動を行うとともに、その先にある日本の競争力の復権が大きなアジェンダになっています。経済成長や新産業の育成が重要であり、そこでITが役に立つことは多いのです。われわれ日本マイクロソフトは、単にモノを買っていただくだけではなく、顧客の企業競争力を高め、それが日本の国力向上につながる取り組みをしていくべきなのです。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
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明治学院大学 経済学部准教授