引地氏が今年、同社IT部の重点テーマとして挙げるのは以下の4つだ。
もはやビジネスの変革はIT抜きには語れない。そして、東日本大震災から学んだように、不確実性の時代にあっても持続的な利益成長を遂げていくには、「変化への対応力」を企業全体が身に付けていかなければならない。これまで3カ年の中期経営計画を策定してきた同社だが、「経営計画2012」からは、期間を3年間だが、1年ごとにローリングを行う方式に変更、企業を取り巻く環境の変化に対応しようとしている。
「世界トップを目指すJTのビジネス戦略をいかに後押しできるか。ITインフラは柔軟でなければならないし、アプリケーションもできる限りパッケージで標準化し、簡素化していかなければならない」(引地氏)
既にお気づきの読者も多いだろうが、これらの4つのテーマはばらばらにあるのではなく、それぞれが密接に関連している。「日本の会社だから、ことさら“グローバル”を掲げる必要がある」と引地氏も苦笑する。特に2番目のグローバル化は、全体最適や人材のテーマと関わってくる。
「もちろん、対顧客では、国や地域ごとにビジネスのやり方が違ってくるので個別のところは残るが、それ以外のプロセスは国内、国外を問わず、パッケージを可能な限り導入し、標準化していく」(引地氏)
また、世界中のグループ会社で約5万人が働くJTにおいては、情報システムのID管理が極めて重要となる。最も貴重な経営資源である人材を柔軟に再配置していくための基盤となるからだ。社員のプロファイルとロールも併せて管理しているこのID管理によって、JTグループ社員は、グループ企業へ出向した際にも同じIDを使い続けられる。もちろん、複数のシステムにまたがるシングル・サインオンも実現しており、利便性向上も図っている。
部門や地域を超えたコラボレーションを活性化すべく、MicrosoftのExchange、SharePoint、およびLyncを導入、グローバルなコミュニケーション基盤も整備している。今年の秋には、グローバルアドレス一覧から名前をクリックするだけですぐにオンラインで会議ができるようになるという。
「JTグループにとっては、新たな市場を切り開くイノベーションはとても大切だ。世界に分散する研究所同士のコラボレーションも欠かせない。次は、そうしたアイデアを交換・共有するイノベーション促進の場として、社内SNSの導入を検討している」と引地氏。
本社の情報システム部門を統括する引地氏として、情報システム部門の「人材育成」も避けて通れないテーマだ。JT本体の40名に国内グループ会社の80名、これにパートナー企業の社員約200名が加わる。海外グループ企業の情報システム部門では約700名が働いており、JTグループ全体では1000名を超える。
「持たざるITの方針を打ち出している当社としては、それほど不足のない人員だと考えているが、バブル崩壊後の採用抑制で40代が少なく、世代交代が難しくなっているし、若い世代もITにネガティブなイメージを抱いている。これもリスクのひとつだ。これからのビジネスマンには、キャリアパスとしてIT部門にチャレンジし、テクノロジーを使いこなしてほしい」と引地氏は話す。
海外たばこ事業のIT部門では女性が2割を占めるなど、多様性という点でも国内は後れを取る。こうしたギャップを埋めるべく、海外事業との人事交流も始まっている。現在、30代の2人の社員が海外たばこ事業の本社機能が置かれているジュネーブに出向中だ。新しい環境の中、いろいろなことを経験し、吸収してほしいと引地氏は考えている。
「国内のスタッフにも機会を捉えては、外へ出ろ、と話している。当社のDNAを守っていくことも大切だが、異業種とも交流し、さまざまな意見に耳を傾けることがこれからは重要になってくるはずだ。IT部門の組織づくりも、5年、10年と先を見ながら、事業部門からの異動と生え抜きを組み合わせ、さらに中途採用で補い、ハイブリッドな組織にしていきたい」(引地氏)
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明治学院大学 経済学部准教授