周囲のメンバーがかかわり合うことが育成の連鎖に繋がる。成長を支援し合う組織作りのために意識するべき3つのポイント。
マネジャーに集まってもらい「マネジャーの役割は何か。自らの意見をもとにディスカッションをしてください」と問うと、「部下育成」や「メンバーの成長」は必ず挙げられる。皆、必要だということは分かっている。そして、育てようという意志もある。けれども、「育成が十分できていますか?」と聞くと、Yesとは言い切れない。
さまざまな業務で忙しい日常の中、「期限がある仕事」ではない育成はどうしても後に回しがちである。では、忙しい現状でどのようなポイントを重視して、育成というものを直視するべきか。
多くの企業で新人育成などに取り入れているOJTという制度について、その状態を知るために、ある会社で新人とそのOJTトレーナー(育成担当者)それぞれ100人強にアンケートを取ったことがある。
OJTトレーナーへの「新人の育成に意欲的ですか」という質問に対して、「上司からアドバイスを(いつも・たまに)受けている人」は、5点満点中4.14という回答であり、「上司からアドバイスを受けていない人(どちらともいえない含む)」は、5点満点中3.69という回答であり、0.5ポイントも差があった。
また同様に「同僚・先輩からアドバイスを(いつも・たまに)受けている人」は4.10、「同僚・先輩からアドバイスを受けていない人」が3.75とこちらも差が見られた。そして、その結果は、新人自身に聞いた「仕事に意欲的に取り組んでいますか」の回答結果にも影響を及ぼしていた。
周りの人がかかわり合うことが、育成の連鎖に繋がっていく。一人で誰かを育成するのではなく、たて・よこ・ななめで、互いの成長を支援しあう。そういった職場の方が、一人ひとりの成長が早く、かつ一人ひとりの育成負荷もかかっていない。では、そのような成長を支援し合う組織をどのように作るのか。
1つ目としては、互いに成長を支援しあうことを目指したビジョンを掲げることである。ビジョンとして掲げないと、忙しい他のメンバーは意識はできない。その上で、育成は「やっているつもり」になりやすいため、「相手の良い点を伝える」「チャレンジを後押しする」というような行動レベルでの具体化へと浸透が望まれる。
弊社では、成長に関する具体的な支援状況を4種類の支援(アドバイス「技術的支援」、ハゲマシ「精神的支援」、ストレッチ「挑戦支援」、キヅキ「内省支援」)で可視化する「成長支援組織診断」を提供している。現状の支援状況を可視化し、部署メンバーで目指す状態を考える機会を提供すると、多くの人が「何となく曖昧だったが、やるべきことが具体的になり、皆で共通認識が持てた」という声をあげる。
実際に具体的なビジョンを掲げ、メンバーと共通認識を持っている部署は想像以上に少ない。皆さんも成長を支援し合う組織を目指したビジョンを掲げているかを改めて確認してほしい。
2つ目としては、自らがオープンになることである。自分の弱い部分、現在悩んでいることを部下に伝える。そして、部下がマネジャーを支援・フォローする状態を作ることが大事だ。先日ある中堅社員が「直属のマネジャーが、自らの成長課題をオープンにし、日々頑張っているところを見せられるからこそ、自分はこのマネジャーのために何か支援したいと思い、マネジャーに対して気になる点を伝えたり、フォローしたりしている」と言っていた。
部下が上司の成長を支援する。それがないと組織としてはトップダウンという一方向の育成支援しか起こらなくなる。互いに成長を支援し合う組織を作る一歩目としては、プレイングマネジャーと一番近い距離にある部下が自らマネジャーを支援することから始まるのだ。皆さんも一番近い距離にある部下との関係がどうなっているか、そして自分自身はオープンになっているかを改めて見てほしい。
3つ目としては、短期的な効果を求めすぎないことである。組織は簡単には変わらない。特に育成風土のようなものは、一気に変わることはない。一方で、一歩ずつ変化していくことも事実である。ある会社で3年前にOJTトレーナー向けプログラムを実施した際は、参加の意味が見いだせず斜に構えた人ばかりであった。しかし、次の年には好意的に受講する人がやや増え、その次の年には、事前課題もしっかり対応し、非常に前向きな人が増えていた。
一気に変えることを期待し過ぎず、一歩ずつ変えていくという長期視点と意志が大事なのである。皆さんも自部署に対してどのようにとらえているか改めて考えてほしい。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
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明治学院大学 経済学部准教授