目指すのは革命より文明――ITリーダーは任せられた仕事を「やりきる」ことが重要「等身大のCIO」ガートナー重富俊二の企業訪問記(2/2 ページ)

» 2015年04月07日 08時00分 公開
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ITをもっとクリエイティブに

――話は変わるが、自身にとっての転機はどのように訪れたのか。

リクルート住まいカンパニーの内田氏(左)、ガートナーの重富氏(右)

 これまでに3回転職したが、自分が手を挙げても仕事を任せてくれる会社は少なかった。特にSIベンダーでは、契約をまっとうすることが仕事であり、チャレンジが難しかった。リクルートグループに入った後は、大規模プロジェクトが終わった後の戦後処理(運用課題解決やエンハンスプロセス整備)を担当することが多く、一部で「マッカーサー」と呼ばれていた(笑)。

 この会社は、新しいことを立ち上げるのが好きな人は多いが、立ち上げた後の運用が得意な人は少ない。そこで、この分野では勝てると思った。

 リクルートグループでは、改善すればするだけ褒められる。手を挙げると認められて、成果を上げられれば報酬としてより大きな仕事を任せてもらえるという社風は自分に合っている。

――ユーザー企業に来て、ベンダーとの関係が違うとか、おかしいとか感じたことは。

 一般的なユーザー企業とSIベンダーの関係は発注・受注関係のため、SIベンダーはユーザー企業からオーダーされたことしかやらない。そのためクリエイティブなITが実現しにくい。

 リクルートは、開発パートナーとの関係がフラットなのがすごくいいと思っている。現在は、とにかく情報をオープンにし、一体感を持ってビジネス課題に取り組むことを心がけている。お互い意見を出し合い、ITでビジネスをもっとクリエイティブにしたい。

――リーダーシップに関して影響しているできごとは。

 5年前にマネジャーになったときには、何でも自分でやらなければ気がすまなかった。プレーイングマネジャーになると、自分の能力の限界が組織の限界になってしまうが、任された仕事を失敗させるのがいやで、すべてのことに首を突っ込んでいた。

 マネジャーになって半年ぐらいのとき、メンバーから「任せてくれない」「信頼されない」「仕切られるだけで楽しくない」と社内アンケートに率直に書かれた(笑)。

 自分はリーダーシップがあると思っていたので大変ショックだった。いま考えると、それは自分が褒められるためのリーダーシップであり、組織が褒められるリーダーシップではなかった。

 大きかったのは、失敗してもいいと思えるようになったこと。いかに小さな失敗を数多くできるかが重要。突出した個の力で成功させても、組織としての知見が残らない。リクルートには、個人を成長させるために、あえて失敗を覚悟でチャレンジさせる文化がある。失敗しなければ、人としても成長しない。失敗をプロデュースする思考が大事だと思う。

 人に任せられることは任せ、勇気を持ってやらないと決めることで時間と気持ちに余裕を持つことができ、新しいアイデアが浮かんでくる。自分が本当にやるべきことに時間を使うことが大事。メンバーがメッセージやストーリーを実行できるところまで落とし込むことがリーダーの役割だと思う。

 あと、ちょうどIT戦略で悩んでいるときに、重富さんに会い、「ITリーダーはもっと経営と戦うべきだ」と渇を入れられたことも影響を受けた出来事の一つだった(笑)。

――ITリーダーはどうあるべきか

 ITリーダーは、ビジネスの未来を作ることができる立場にいると思っている。システム構築もそうだが、人材育成も含め、新しいものを作るのには時間がかかる。そのため中長期で考えなければ、あるべき姿に近づくことができない。

 一方、ビジネスは、短期で考えなければならない局面も多い。IT組織はコスト削減や生産性の向上だけやっていればよいと考えるリーダーが多いとしたら、ITでビジネスを作っていく役割を担う意識を持ってほしい。IT側から中長期のロードマップを提示するなどの取り組みの中で、中長期のビジネス戦略を考える「ファシリテータ」になれるチャンスがある。

――次世代のITリーダーへのアドバイスを。

 短期のスキルアップに目がいく若手や中堅が多い。若手から「どうやっていまのスキルを築いたのか」と聞かれるが、自分で設計したわけではない。そのとき、そのときに与えられた役割を精一杯やった結果、後で振り返るとそれぞれがつながっていまのスキルになっている。ITリーダーにとって、任されたことを「やりきること」が最も重要だと考えている。

対談を終えて

 この対談を通して内田氏は、必要なことは「革命ではなく文明を興すことだ」と強調されていた。ITに限らず、変革を継続的・自律的に実行していくためには、それが可能となる組織文化に作り上げていくことがより根本的な解決策だと私も思っている。根本的であるが故に、白紙の状態から作り上げるわけでもないが故に、ある程度の時間がかかる(時間をかける)場合も多く存在している。

 そこはもはや「how to」の世界ではなく、リーダーとしての信念の世界であろう。内田氏の信念は確実に実を結ぶと信じている。

プロフィール

重富 俊二 (Shunji Shigetomi)

ガートナー ジャパン エグゼクティブ プログラム バイス プレジデント エグゼクティブ パートナー

2011年 12月ガートナー ジャパン入社。CIO、IT責任者向けメンバーシップ事業「エグゼクティブ プログラム(EXP)」の統括責任者を務める。EXPでは、CIOがより効果的に情報システム部門を統率し、戦略的にITを活用するための情報提供、アドバイスやCIO同士での交流の場を提供している。

ガートナー ジャパン入社以前は、1978年 藤沢薬品工業入社。同社にて、経理部、経営企画部等を経て、2003年にIT企画部長。2005年アステラス製薬発足時にはシステム統合を統括し、情報システム本部・企画部長。2007年 組織改変により社長直轄組織であるコーポレートIT部長に就任した。

早稲田大学工学修士(経営工学)卒業


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