井上 お客さまに選ばれるため、これまでにどのようなサービスを提供してきましたか。
青木 1976年には、「あいさつをしなければ運賃はいただきません」と謳い、あいさつ運動を始めました。
日本で初めて「身体障害者優先乗車」を実施したのも当社です。今では当たり前のように公共交通機関でも実施されていますが、どこよりも早く取り組んだのは私たちMKタクシーだったのです。
ドイツのタクシー業界を参考にした「救急タクシー」の取組みでは、ドライバー全員に赤十字が行っている救急救護の資格を取ってもらいました。救急箱を車に載せているので、救急の場合はMKタクシーを止めていただければ、応急処置ができる体制を整えています。タクシードライバーに救急救護の資格取得を義務化しているというドイツの取組みを日本でも取り入れようと始めました。
他にもあらゆることに挑戦してきましたが、それらはすべてお客さまに選ばれるタクシー会社となるためなんです。
井上 運賃の値下げを全国で初めて行ったのもMKタクシーでしたよね。
青木 タクシーの運賃については、地域ごとに統一された運賃体系が法律で定められており、その運賃体系で営業をするのが当たり前だった時代がありました。私たちMKタクシーは運賃の値下げを認めてもらおうと、当時の運輸省を相手に裁判を行い、1985年に勝訴。1993年には全国で初めての運賃値下げが認可されました。
私たちには、適正な価格でお客さまにサービスを提供する義務があります。タクシー運賃がお客さまにとって高いものであってはならないと考えていたんです。「よりよいサービスを適正な価格で提供する」という自分たちの強い信念があったからこそ、「運賃値下げ裁判」をはじめとする革新的な取組みにつながっていきました。
井上 まだ禁煙や分煙が浸透する前の時代に、タクシー車内を全面禁煙にした取組みが印象に残っています。お客さまはもちろん、ドライバーのみなさんに禁煙を徹底するのは大変だったのではないでしょうか。
青木 全面禁煙を実施したのは、1992年のことです。全面禁煙実施に向けて、1989年にドライバーに対してタクシー車内での禁煙を始めました。お客さまを乗せているときはもちろん、空車のときも車の中で煙草を吸うのを禁止しました。最初は本当に苦労が絶えませんでした。車内で煙草を吸っているドライバーを見つけては始末書を書かせていましたね。車内では煙草を吸わないということを浸透させるのに4年かかり、ようやくほぼ無くなったというタイミングでお客さまに対しても禁煙を実施しました。
いきなり全面禁煙とするのではなくて、受け入れてもらうための環境を少しずつ整えていき、一歩一歩ステップを踏んでの実施でした。革新的な取組みをしていると見られることが多いですが、実際に実施できるようになるまでには、段階を踏んだ準備期間があるのです。
井上 業界において革新的な取組みをしながら、タクシードライバーの社会的地位向上を目指しているのには、どのような思いがこめられているのですか。
青木 私は、タクシーにはまだまだできることがたくさんあると思っています。日本全国あらゆるところにタクシーは走っているので、有効に活用できる環境を整えれば、タクシーの可能性はもっと広がるのです。そのために重要なのは、人材の活性化、と教育です。全国各地のタクシードライバーが社会的に確かな信頼を得ることができれば、街の安全安心を守る担い手、よりスピーディな物流の手段にもなれると考えています。
例えば、タクシーによる巡回警備。全国のあらゆる場所で走っているので、異常があれば、近くのタクシーが出動するという役割を担うことができるようになるかもしれません。
他には、デリバリーに活用することもできるでしょう。タクシーでの配送が可能になれば、注文して30分後には届くということも難しくありません。今は法律の関係でできませんが、いつかは可能になるサービスだと思っています。
タクシードライバーの社会的地位の向上は、タクシー会社の存在意義を高めることにつながります。MKタクシーがないと困るという存在になることを目指しています。今まで行ってきたあらゆる施策はすべて、より多くの人から必要とされるタクシー会社となるための取組みだといえます。
業界を変えるような革新的な挑戦をしながらも、それを支えるのはタクシー会社としての基本的な価値です。そのために重要なのが当たり前のことを徹底するということ。「あいさつ」「笑顔」「無事故」をこれからもドライバーに伝え続け、業界を牽引し、より多くのお客さまに選ばれるタクシー会社となりたいですね。
MKタクシーというと何か新しいサービスを打ち出したり、他社に先駆けて目を引く事をしている印象がありましたが、当たり前のことを徹底するということが顧客満足であるという発想に驚きました。先に進む前に自社の業務やサービスを深掘りして考えてみる。そこにこそ新たな顧客満足があるように思え、この姿勢はどの業界でも通用するものだと思いました。また、人材育成の肝は言い続けることだという青木社長の言葉は、やはり覚悟に勝る戦略はないのだと大変感銘を受けました。個人的にはMKタクシーが掲げる、他企業のサービスを融合する姿を早く見たいと期待しました。
井上敬一
ブランディングコミュニケーションデザイナー
株式会社FiBlink代表取締役
兵庫県尼崎市出身。立命館大学中退後、ホスト業界に飛び込み1カ月目から5年間連続ナンバーワンをキープし続ける。当時、関西最高記録となる1日1600万円の売り上げを達成。業界の革命児として、関西最大規模のホストクラブグループの経営業を経て、現在は実業家として企業、個人のブランディングやアパレル、サムライスーツなどのプロデュースを手掛ける他、人に好かれるコミュニケーションを伝える研修・講演を展開している。また、WEBセミナー「プレジデントキャンパス」により、中小企業経営者の学びの場をもっと身近なものにして日本経済を牽引する役割を目指す。
圧倒的な実績に裏付けられたコミュニケーションスキルをわかりやすく説く講演は、多くの企業・団体から支持を受けている。これまで数多くのメディアに取り上げられ、独自の経営哲学で若いスタッフを体当たりで指導する姿はフジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』で8年にわたり密着取材され、シリーズ第6弾まで放映されている。
主な著書に、「ゴールデンハート」(フジテレビ出版)、「人に好かれる方法」(エイチエス株式会社)などがある。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授