大切なのはブレないことと成し遂げる信念――フジテレビの「LIFE IS LIVE」を支える「等身大のCIO」ガートナー重富俊二の企業訪問記(2/2 ページ)

» 2015年07月29日 08時00分 公開
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フジテレビだから(Windows)8でしょ!

――記憶に残るプロジェクトについてうかがいたい。

フジテレビの吉本氏(右)、ガートナーの重富氏(左)

 情報システム局に異動してきたときに、Windows XPのサポートが終了するのでWindows 7へのバージョンアップの準備が進んでいた。しかしWindows 8が発売されるのになぜ最新のOSにしないのかと聞いてみた。すると「情報システムは安定稼働が必要なので、最新版は使えない。ほかの会社もそうしている」という答えだった。

 いくつかの調査会社にも話を聞いたが、どこも「時期尚早。チャレンジしたければどうぞ」という答えだった。そこで日本マイクロソフトと話をし、全面的なサポートを約束してもらい、Windows 8を導入することを決定した。

 当初は懐疑的だった情報システム局のメンバーも、最終的にはWindows 8を猛勉強して移行に備え、結果としてほぼノートラブルで作業を終えることができた。このとき現場の一体感が生まれ、「局長についていきます」「オレもおまえらと仕事ができて良かった」と、ドラマの一場面のような雰囲気になった(笑)。

 情報システム局に来てからの一番の大きなプロジェクトは、2013年の「FNS情報システムセンター構築」だった。フジテレビは、FNSのキー局として、全国の系列局27局を通じ全国放送している。FNS情報システムセンターは、系列各局で独自に所有(オンプレミス)していた営放システム(放送の基幹システム)などをクラウドで共有使用するものだ。

 系列間で必要な情報連携がすべてクラウド上でできるので、費用・運用の軽減、大規模災害時のBCP(ビジネス継続性計画)の確立が可能。2013年に約半年かけて全局移行作業が終了し安定稼働している。複数の放送局による基幹システムのクラウド化は世界でも初めてで、他系列の先を行くシステムであり、2014日本民間放送連盟優秀賞を受賞した。

 プロジェクト遂行にあたり、一番大切だと思ったのは参加者全員がブレないこと、そして成し遂げるという信念だった。実際、関係者の熱意はすごく、それまでのクールで真面目というシステム担当者に対するイメージが大きく変化した。

 当時は異動後まもなくで、ほとんど初対面の各局の担当者との信頼関係を築けるかが最大の課題だった。なんども全国を飛び回り、実際に会って討論し、酒を飲み、系列局一丸になって対応した。

 系列局、協力会社の多くのメンバーと一緒に、業界初のチャレンジができたのはすばらしい経験だった。もちろん周りの協力があったからだが、IT経験の少ない自分にとって自信になるプロジェクトだった。

デジタル時代に必要とされる人材とは

――リーダーは周囲の話を聞きながらも、最終的な決断は自分を信じることが必要だと思うが。

 善悪がはっきりしていないので難しい面はある。テレビ局にとって放送の維持が何と言っても優先されるので、新しいチャレンジを決断するのは勇気がいる。ただWindows 8への移行、FNS情報システムセンター構築などのチャレンジで、情報システム局のメンバーにも意識改革が進んでいる。

 今後は、デジタルな感覚とビジネスの感覚を兼ね備えた"デジタル・テレビパーソン"の育成に取り組んでいかなければならない。ただし情報システム局だけを活性化しても意味はない。フジテレビ全体としてITの力で活性化していかなければならない。

 ITは、今後のビジネスにおける共通言語であり、文系とか、理系とかいうものではない。センスのある人材を採用し、育成していかなければならない。

――信条や座右の銘は?

 信条や座右の銘ではないが、10数年前、まだ番組制作をやっているころ、部下から「吉本さんは、石高の小さい殿様みたいなのでついていきます」と言われたことがある。この言葉が頭に残っており、いま思えば最上級の褒め言葉だったと思う。

 石高が小さいから農民とうまくやっていかないと領地を守れない殿様。つまり情報システム局のメンバーとともに汗を流す身近なリーダーだということだと思う。いまでもたまに会って「オレ大きくなった?」と聞くと、「まだまだ小さいから大丈夫です」と言われて、ちょっと嬉しかったりする(笑い)。

 もちろんカリスマと言われるリーダー像もあるが、「石高の小さい殿様」と言われるリーダー像もあっていいと思う。やることは同じで立ち位置が違うだけかもしれないが、自分自身は後者を選びたいと思っている。

対談を終えて

 吉本氏にお話をうかがっていると、とにかくテンポが良く"乗り"が良いことに直ぐに気が付く。聞き手は、あたかも一つの用意されたシナリオ通りに順調に事が行われてきたような印象を持ってしまうが、実はその前提には「10通り程度の解決策」が準備され、ポジティブな試行錯誤が重ねられた結果であったのであろうと思う。

 一緒に仕事をするメンバーにとっては、偉ぶらない頼もしいリーダーであることは想像に難くない。これからも「石高の小さい殿様」であって欲しいと私も一緒になって思ってしまう。

プロフィール

重富 俊二 (Shunji Shigetomi)

ガートナー ジャパン エグゼクティブ プログラム バイス プレジデント エグゼクティブ パートナー

2011年 12月ガートナー ジャパン入社。CIO、IT責任者向けメンバーシップ事業「エグゼクティブ プログラム(EXP)」の統括責任者を務める。EXPでは、CIOがより効果的に情報システム部門を統率し、戦略的にITを活用するための情報提供、アドバイスやCIO同士での交流の場を提供している。

ガートナー ジャパン入社以前は、1978年 藤沢薬品工業入社。同社にて、経理部、経営企画部等を経て、2003年にIT企画部長。2005年アステラス製薬発足時にはシステム統合を統括し、情報システム本部・企画部長。2007年 組織改変により社長直轄組織であるコーポレートIT部長に就任した。

早稲田大学工学修士(経営工学)卒業


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