「働き方改革」の要諦は、生産性の革新にある。これまでの組織にはいなかった「はみ出し人材」を招き入れて、チームでイノベーションを起こそう。
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日本では昨今、「働き方改革」が評判になっています。しかし残念ながら、残業時間が減ること、余暇を充実させることが世間の主な関心事となっており、多くの人たちはより本質的で重要なイシューと向き合えていないように思えてなりません。
エグゼクティブが本来向き合うべきそのイシューとは、もう20年前からいわれていることですが、日本が世界に先立って超高齢化社会へ突入し、人口減少、労働力不足に陥ることはほぼ間違いないということです。これから数十年のうちに、生産年齢人口は数百万人〜数千万人という途方もない単位で減少すると推計されており、女性や高齢者、移民まで含めても労働者数の増加施策では補いきれません。すなわち、労働人口当たりの生産性を飛躍的に高めることこそが、エグゼクティブが取り組むべき最優先課題ではないでしょうか。残業時間の短縮や働き方の多様化といった、ちまたで話題の問題は、本来は課題解決のための手法の一つにすぎないと私は考えます。
現実には、これまで長らく日本経済をけん引してきた「長時間労働」が、今や諸悪の根源のように否定される風潮となりました。こうした社会文化的な潮流にも慣性が働き、今の子どもたちが成人する数十年先まで続くでしょうから、労働人口の減少にもかかわらず、一人当たりの労働時間は減少の一途をたどるはずです。
そうすると、日本が必要とする労働生産性の向上は、もはや年率数%程度の「カイゼン」では全く足りません。企業には、革新的なまでの労働生産性向上(あるいはイノベーション)が期待され、それができない企業は淘汰(とうた)されて然るべき時代が来ました。では、エグゼクティブには具体的に、どのようなマネジメントが求められるのでしょうか。
皮肉を言うつもりはないのですが、日本経済の状況に鑑みれば、現在の日本におけるエグゼクティブの中には、イノベーティブな人材はそう多くないと考えるのが妥当でしょう。かといって、あなたが、今日明日でいきなりイノベーティブな人間に生まれ変わることは、ほとんど不可能です。
そもそも、組織の労働生産性を革新するようなイノベーションを、自分の創造力だけで起こそうとする発想自体に無理があります。なぜなら、脳科学的にも文化人類学的にも、イノベーションが起きるのは異質なもの同士が出会った時だからです。
むしろ、エグゼクティブは組織を率いて結果を出す立場にあるわけですから、まずはイノベーティブな人材をチームに加えることが肝要なのではないでしょうか。部下に招き入れる、外部アドバイザーに参画してもらう、ベンチャー企業と提携する、あるいはM&Aを行うなど、いろいろな方法があります。
もちろん、彼ら彼女らに旧来型の仕事を旧来型のやり方で「やらせる」ようでは、意味がないどころかチームの生産性を落としかねません。そうではなく、一昔前なら「はみ出しもの」と避けられたような、異質な人たちをもチームに取り込んで、新たな化学反応を起こすようなマネジメントが求められます。
では、チームの労働生産性に革新をもたらすために、具体的にはどのような特質を持った人たちを迎え入れればいいのでしょうか。自社事業に全く門外漢のスポーツ選手やミュージシャンを招聘(しょうへい)しなければならないわけではありません(それはそれで面白いイノベーションが起きるかもしれませんが)。この点で、拙著『人生をはみ出す技術』では、日本にまん延する閉塞(へいそく)感を打破し、非連続の革新をもたらす「はみ出しもの」になりたい社会人向けに、方法論を展開しており、その視点から参考になるかと思います。
仕事に対する姿勢ですが、「はみ出し人材」は、ただ真面目に与えられた仕事を効率的にこなすのではなく、かといって個性を主張するばかりでもありません。彼ら彼女らは、仕事や遊びを通じて「自分らしさ」を発揮し、人生を楽しもうとする人たちです。
単に「自分らしさ」を主張しても社会で通用するはずがないことは身をもって経験しており、いったんアンラーニングして新しい環境に適応しようとする柔軟さ、結果を出すまでやり抜こうとする粘り強さ、何事にもオーナーシップを持ちポジティブに関わろうとする積極性や責任感の強さを兼ね備えているはずです。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授