プロ経営者 松本晃会長の下、現場では何が起きていたのか――カルビー大変革の舞台裏CIOへの道(1/5 ページ)

日本を代表するプロ経営者として知られるカルビーの元会長、松本晃氏。同氏がカルビーの経営に大なたを振るったとき、人事やIT部門はどんな施策でそれに対応しようとしていたのか。現場の取り組みに迫った。

» 2018年09月11日 07時00分 公開
[やつづかえりITmedia]

この対談は

日本企業のCIO設置率は42.1%、うち、専任者は6.5%――。これは2015年6月に発表された経済産業省の「情報処理実態調査」によるもので、ITとビジネスが不可分な時代になったにもかかわらず、それらを統合的に見るCIOという存在がいまだ少ないことを示しています。

なぜ、CIOが増えないのか――。理由はいろいろありますが、その一つには「そもそもCIOとは何なのか」が知られていないことが挙げられます。今、活躍しているCIOは、どんなキャリアをたどったのか、どのような心構えで職務を遂行しているのか、CIOになるために必要な資質とは何なのか――。この連載では、CIOを目指す情報システム部長と識者の対談を通じて、CIOになるための道を探るとともに、企業の再生について考えます。


 今回の座談会では「大変革を遂げようとする組織において、人事部やIT部門が成すべきこと」をテーマに、カルビーがプロ経営者として知られる松本晃 元会長兼CEOの下で行った大変革の舞台裏に迫った。

 クックパッドの情報システム部門を率いる中野仁氏が聞き手となり、カルビーの人事総務部で部長を務める福田仁氏、情報システム本部 本部長の小室滋春氏、コーポレート・コミュニケーション本部 広報部で部長を務める田中宏和氏に、松本体制が始まってからの組織の変化と現在の課題、今後の取り組みについて聞いた。

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話し手

カルビー 人事総務部 部長 福田仁氏プロフィール

大学卒業後カルビー株式会社に入社し、工場人事、営業、マーケティング、経営企画などの職務を経験。2003年より人事の職務につき、人事制度企画・運営、労務問題、採用、人財育成など人事全般を経験、2014年より3年間西日本地区人事担当後、現職に。戦略パートナーとしての人事を志向し活動中。


カルビー 情報システム本部 本部長 小室滋春氏プロフィール

1988年、アーサーアンダーセンアンドカンパニー(現アクセンチュア)入社。電機業界などのシステムコンサルティングに従事。2008年に日本SGIへ転職。社内システムを米国本社に統合するプロジェクトを統括。2015年から現職。国内関係会社を含むカルビーのITの企画、運用を担当する。


カルビー コーポレート・コミュニケーション本部 広報部 部長 田中宏和氏プロフィール

1986年カルビーに入社。営業、営業企画を経て、経営企画(経済団体出向含む)などに従事。2007年に広報室へ異動し、社長交代、株式上場を経験。その後、広告宣伝を2年経験したのち、再び広報部門にもどり、現在は社内外広報、及び渉外活動を担当する。


聞き手

クックパッド コーポレートエンジニアリング部 部長 兼 AnityA 代表取締役 中野仁氏プロフィール

国内・外資ベンダーのエンジニアを経て事業会社の情報システム部門へ転職。メーカー、Webサービス企業でシステム部門の立ち上げやシステム刷新に関わる。2015年からクックパッドで海外を含むシステム刷新を推進する。2018年、AnityAを立ち上げ、代表取締役に就任。システム企画・導入についてのコンサルティングを中心に活動。システムに限らない企業の本質的な変化を実現することが信条。


プロ経営者の力で生まれ変わったカルビー。それでも変わらない文化とは

Photo カルビーのコーポレート・コミュニケーション本部 広報部で部長を務める田中宏和氏

 創業以来、60年にわたって創業家と生え抜きの社員が経営を司ってきたカルビーは、2009年に初めて、社外から経営のプロである松本晃氏を招いた。まずはその経緯について、田中氏に聞いた。

田中氏 創業家の最後の社長であった松尾雅彦は、会社を社会の公器にしたいという考えの経営者で、親族に会社を継がせようという考えは持っていませんでした。時代背景としては、少子高齢化で食に関わる事業、特に若い人やお子さんが食べるスナックの売上は伸び悩んでいくだろうという危機感があり、競争環境のグローバル化にも直面していました。

 そんな中、もともと交流のあった松本さんに、21世紀のグローバル企業への転身を託したいと声をかけたんです。松本さんは当時、60歳を過ぎていて、「社長を引き受けることはできないけれど、何がしかのお手伝いなら」ということだったので、会長兼CEOという役割で招きました。

――(聞き手 中野氏)私もかつて、国内のオーナー企業で働いていたときに大きな変化を経験しました。オーナー企業というのは独特のカルチャーがあるものですが、カルビーさんでも社内の空気や文化が劇的に変わりましたか?

田中氏 先の松尾雅彦は、創業家の経営者として13年にわたって社長を務めましたので、良いか悪いかは別として、社員は社長の言うことを信じて仕事をすれば、良い業績を出すことができ、給料を減らされたり降格されることもない――という状態が続いていました。しかし、それではグローバル企業として業績を伸ばしていくことはできないと、社員の意識改革を促したのが松本さんでした。

 とはいえ、長らく続いてきたものを急に変えるのは難しいですし、当然、改革には痛みが伴いますから、その過程で会社を離れていった人間も少なからずいましたね。

福田氏 私も田中も新卒でカルビーに入り、オールドカルビーと今のカルビーの両方を知っています。辞めた人からは「違う会社になったね」といわれることもありますが、根っこのところに変わらない部分もあると感じています。

――それはどんなところですか?

福田氏 従業員を大切にするとか、チームワークの良さとか、そういった温かさのようなものは残っていると思います。松本が「ぬるいんじゃないの?」と言っていた部分でもありますけどね(笑)。これは、カルビーのビジネス環境によるところが大きいと思います。ある程度マーケットシェアがあって、ナンバーワンの地位も維持できているので、必死に戦ってきた経験が少ない。それが会社の風土にも影響しているのではないかと思うのです。

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